2009-01-01から1年間の記事一覧

池澤夏樹「ハワイイ紀行 完全版 (新潮文庫)」

「ハワイアン・ガーデン」に引き続き、ハワイシリーズ第二弾。 北海道に生まれ、沖縄に移住して暮らしたこともある小説家が、ハワイを旅した記録。「紀行」というタイトルだが、ただ旅先での経験や感想を書いた、という本ではない。自然について、言葉につい…

近藤純夫「ハワイアン・ガーデン―楽園ハワイの植物図鑑」

旅行に行く楽しみはいろいろあろうけど、個人的にその最たるものは、旅行に行く(行った)地域について書かれた本に対する興味がぐーんと増すことである。 読みたい本はいくらでもある。「どうせ関係ないし、行かないし」と思っていると、どんなに評判が良く…

高橋俊介「自分らしいキャリアのつくり方 (PHP新書)」

久しぶりにビジネス書を。 この著者の書くものにはずいぶんと感銘を受けた。 「キャリアショック」では、自分のキャリアを計画的に描くことの難しい変化の時代にどうキャリアを築いていけばいいのか、またそのような時代に企業は個人のキャリア形成をどのよ…

橋爪大三郎「はじめての言語ゲーム (講談社現代新書)」

正直なところ、こういう本を読んだ感想を書くのは少々気が重い。楽に書けばいいじゃないかとわかっていても、ビジネス書とか小説、評伝を読んだ時のようにはさらさらと書けないのが、こういう哲学などを扱う本についてだ。ヴィトゲンシュタインに興味を持っ…

佐藤多佳子「一瞬の風になれ 第三部 -ドン- (講談社文庫)」

最終巻は、3冊の中で一番ページ数が多い。高校の陸上部の3年生となった主人公とその仲間の、それぞれの挑戦を、大会でのシーンを中心にずんずんと読ませていく。 物語を先に進ませて大団円に持っていくことに意識が行ってしまいそうな、少なくとも読む方は…

原賀真紀子「「伝わる英語」習得術 理系の巨匠に学ぶ (朝日新書)」

仕事柄、英語を使う、使わざるを得ない「理系」と言われる人々に、どのように英語を使ってきたのか、そのコツはあるのか、について聞いたインタビュー集。あまり期待しないで読んだのだが、おもしろかった。 もちろん、6人ものお話が収録されているので、そ…

郷原信郎「「法令遵守」が日本を滅ぼす (新潮新書)」

コンプライアンスについて考える二冊目。一冊目の「会社コンプライアンス」は、憲法に詳しい著者が、ある意味理想論的に、極めて真っ正面からコンプライアンスの意義について述べたものだった。それはそれでなるほどと思ったが、今回読んだこちらはかなり色…

星新一「明治・父・アメリカ (新潮文庫)」

ショートショートで有名な星新一の名前は誰もが知るところだろう。この本は、彼が自分の父親・星一(ほしはじめ)の若き時代について、何冊かの本を下敷きにして書いた評伝。 以前、同じ著者が、製薬会社を興して官僚組織と戦う父の姿を描いた「人民は弱し …

山井教雄「まんが パレスチナ問題 (講談社現代新書)」

タイトルがあまりに簡単なのであなどっていたが、これはすごい本を読んでしまった。 大学の学部生のころ、世界の政治・経済・外交について論じあうゼミに所属していた。さまざまな話題の中でも、特にパレスチナ問題は歴史的な経緯や宗教的な背景が分かってお…

堀井憲一郎「落語論 (講談社現代新書)」

前著「落語の国からのぞいてみれば」で、落語から江戸時代と現代の人間の暮らし・人生観について語ってくれた著者が、直球のタイトルで落語について論じる。 聞いた落語、音楽、読んだ小説…読んで面白かった科学論文を含めてもいい。こうした個人的な経験を…

佐藤多佳子「一瞬の風になれ 第二部 -ヨウイ- (講談社文庫)」

2冊目。試合と練習のサイクルと、それを通して絆を深めていく仲間、高校から陸上をはじめながらも次第にモチベーションを高め才能を開花させていく主人公。こうした日々が、主人公の気持ちを揺れ動かすできごとなどを挟みつつ淡々と進む…ものと読んでいたが…

塩野七生「マキアヴェッリ語録 (新潮文庫)」

マキアヴェッリというと、「君主たるもの目的を達するためには非情さも厭わないことが重要だ」というようなことを言った人、というイメージがあった。「自省録」でマルクスが語るような、人格者としての君主・指導者と全く正反対なことを述べているのだ、と…

伊藤真「会社コンプライアンス―内部統制の条件 (講談社現代新書)」

「コンプライアンス」という言葉こそ使わないが、会社だけではなく、法人化した大学(とその機能単位である研究室)もなにかと法令遵守系の指導やそれに関わるお仕事が増えている。例えば安全に実験をすること、正しくお金を使うこと、危険なものを文章にし…

佐藤多佳子「一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ- (講談社文庫)」

早くも文庫化。勢いで三冊いっぺんに買ってしまった。まずはイントロともいえる一冊目。 ちょっと対象とする読者の年齢が低いかもしれないなと心配しつつ読んでいくが、普通におもしろい。いわゆる運動系の部活に入っていなかった自分としては、「もっと早く…

鴻上尚史「「空気」と「世間」 (講談社現代新書)」

著名な演出家であり、演劇を長くやってきた観点から「あなたの魅力を演出するちょっとしたヒント」や「孤独と不安のレッスン」などの本で、身体や言葉の使いかた、他人とのコミュニケーションのとりかたについて優しく読者にアドバイスしてくれた著者。 最近…

佐野眞一「渋沢家三代 (文春新書)」

「旅する巨人―宮本常一と渋沢敬三」に引き続いて、同じ著者が渋沢家の三代の生き生きとした姿を伝える評伝。 日本の資本主義の父とも言える栄一、遊びに生涯を捧げた息子の篤二、宮本常一ら民俗学者を支援し戦後は『にこやかな没落』を選んだ孫の敬三。敬三…

黒田涼「江戸城を歩く(ヴィジュアル版) (祥伝社新書 161)」

特に詳しいわけでもなく、ことさら興味があるわけでもないのに何となく買ってしまったが、面白かった。 『都市構造の発展が江戸城に規定されている(p246)』東京。それがよく分かるのは、江戸時代にそこに何があったのか、現在の地形と並べて比べてみること…

飯田道子「ナチスと映画―ヒトラーとナチスはどう描かれてきたか (中公新書)」

これはおもしろい。目のつけどころも、内容も、かなりのツボだった。 開発されたばかりの映画というメディアを最大限に利用して、プロパガンダ戦略を展開したヒトラーのナチス。逆に戦後は、ナチスとその「悪行」を対象にした映画が数多く生み出され、時代と…

夏目漱石「夢十夜 他二篇 (岩波文庫)」

こうやって本を読むたびに感想を書いていると、新書などはまあいいのだが、小説などは、何か書くのが恐れ多いように思うときもある。読んだのだからよんだままでいいじゃないか、というような本。 この人のものなどはその一つだと思われていると思うが、ここ…

須賀敦子「ヴェネツィアの宿 (文春文庫)」

最近不毛とも思えるような仕事が多く、心が疲れている。本にのめり込んでいるときだけが唯一心が落ち着く。しかもこういうときは、新書などではなく、読んでいてストレスのない、評価の定まっている本がいい。 というわけで須賀敦子をはじめて読んだ。 昭和…

傅田光洋「皮膚は考える (岩波科学ライブラリー 112)」

最近、自分の皮膚の健康状態について気にするようになり、皮膚についてよく知ろうと本を読んでいる。以前読んだ、少し硬めの「皮膚の医学」に続いて、柔らかい口調が印象に残るこの一冊を。この本では、化粧品会社に勤める研究者である著者の研究の結果を中…

森見登美彦「きつねのはなし (新潮文庫)」

「夜は短し歩けよ乙女」とはまた違う雰囲気の、少々おどろおどろしい京都が味わえる短編集(帯には「奇譚集」とある)。 キャラクター造形の巧みな噺家さんが、古典落語の怪談噺を一席語っているような感じ。そういう噺によくあるように、親しみのある仲間の…

「考える人 2009年 08月号 [雑誌]」

特集がかなりおもしろい。本屋で即購入。 日本の、ここ300年の科学者(既に亡くなっている方に限る)を100人取り上げ、それぞれの科学者の生涯や考え方がわかる本を一冊ずつ紹介するという企画。 300年前からだから、関孝和や平賀源内など江戸時代…

野家啓一「パラダイムとは何か クーンの科学史革命 (講談社学術文庫 1879)」

「ものの見方」「考え方の枠組み」という意味で一般的にもよく使われる「パラダイム」。この言葉はもともと、科学哲学・科学史において、『研究者の共同体にモデルとなる問題や解法を提供する一般的に認められた科学的業績(p15)』という限定した意味で用い…

三木義一「給与明細は謎だらけ (光文社新書)」

通勤、食事、住宅…健康的に仕事をするためにはたくさん必要なもの、お金がかかるものがある。こうした、一般の会社員に馴染みのある費用を手がかりにして、彼らに馴染みのない税金のかかる仕組みについて説明しようとする本。 そもそも、普通の会社に勤めて…

マルクス・アウレーリウス/神谷美恵子訳「自省録 (岩波文庫)」

ローマの皇帝が、日々の仕事の合間に書き残した言葉の数々。訳者である神谷美恵子の日記を読んだことがあって、ずっと気になっていたこの一冊を、じっくりと読んでみた。古典であり、立派な本と思って読んでみると、その言葉の正直なこと、著者の存在が身近…

太田朋子「分子進化のほぼ中立説―偶然と淘汰の進化モデル (ブルーバックス)」

ブルーバックスにもいろいろなレベルのものがあるものだ。全く手抜きなし、一般向けとしては難解としかいいようがないが、実に読み応えのある一冊。 分子というミクロなレベルでの遺伝子の変化は、その大部分が生物にとって有利でも不利でもなく、中立である…

八代嘉美「iPS細胞 世紀の発見が医療を変える (平凡社新書)」

再生医療に革命をもたらす「iPS細胞」が報告されてからずいぶん経つ。いまだにその何たるかも成立の過程も知らないのではあんまりなので、話題になったこの一般向けの入門書を読んでみた。 研究者見習いとも言える大学院生が書いたこの本、まったくもって見…

藤元宏和「細胞夜話 (mag2libro)」

ちょっとマニアックな本を一冊。 バイオ系企業の社員である著者のweb上のコラムを集めたもの。生物学で使われる道具とも言える「細胞」の名前の由来と開発秘話について、それを開発した研究者本人にメールで話を聞いたりしてまとめ、紹介している。 特に何と…

絲山秋子「沖で待つ (文春文庫)」

福岡の営業所で出会った同期の仲間との心の通じ合いを描く芥川賞受賞作。福岡で、恋人ではない男女の関係というモチーフは「逃亡くそたわけ」と似ている。男女がいれば恋愛という人間関係を意識してそこにだけスポットをあてるのではなく、ここに書かれてい…