傅田光洋「皮膚は考える (岩波科学ライブラリー 112)」

最近、自分の皮膚の健康状態について気にするようになり、皮膚についてよく知ろうと本を読んでいる。以前読んだ、少し硬めの「皮膚の医学」に続いて、柔らかい口調が印象に残るこの一冊を。

この本では、化粧品会社に勤める研究者である著者の研究の結果を中心に、最近の皮膚に関する新しい考え方について紹介されていく。そのメインとなるのは、『垢合成装置(p52)』としか見なされていなかった皮膚の表皮に、温度などの感覚を認識するセンサーがあるのだという発見だ。
表皮は、その名前のとおり、皮膚の一番表に存在している、0.06-0.2mmという薄い層だ。しかし、脳に感覚を伝える神経は、表皮より深い層にまでは存在するものの表皮には届いていない。このことから、表皮は水分を保ち身体を保護するとともに、垢としてはがれ落ちてしまうくらいの機能しかないと考えられていた。
表皮を含む肌を健康に保つには、という問題意識で研究をしている著者は、皮膚の表皮の裏表で電位差(電気を発生する力の差)があるという報告をきっかけにして、『皮膚科学と神経科学の谷間(p68)』の研究に踏み込んでいく。その結果、表皮には温度などを感知するセンサーがあること、熱さや痛さなどの感覚が皮膚に与えられると、表皮より奥にある神経が感じる前に、表皮が感知すること、を明らかにしていく。
この結果は、高校の生物あたりでやる、受精卵から動物の身体ができる様子を見ていくとき、皮膚の一番表側にある「表皮」が、感覚の伝達を司る神経系と同じ由来である、という事実からも納得できるものだ。

簡単に書くとこのようになるが、ここに至るまでに考えたこと、以前から言われていたことなどを、誰にでもわかるように段階を追ってやさしく書いてくれており、それがこの本を誰にでもお勧めできる、面白いものとしている。

さらにすごいなと思ったのは、この著者が、表皮が光を感じているのではないかとか、鍼灸の効果は表皮のセンサーを刺激していることによるのではないかとか、今の段階では何とも言えない仮説についても大胆に述べていることだ。
あくまで自分の研究に沿った話をしている本でありながら、こういう夢のあること、自分の頭の中をどんどん読者に紹介していく肚の大きさ。紹介されている研究結果も、共同研究や人とのつながらいが作ったものが多く、企業の研究者でありながら実にオープンマインドなところがすごい。
また、得られた結果が実際に化粧品などの商品に結びついていく感じも良くイメージできて、企業で研究することの魅力がよく伝わってくる。
こうして最後まで読んで行くと、著者がこうした研究に踏み込んできた過程や、そのきっかけをくれた恩師について、また東洋医学との関わりについてなどについて書かれたむすびにいきつく。ここがまた書いた人の哲学が表れていてとても面白く、もっともっと読んでいたくなった。もう一冊あるようなので、ぜひ読んでみようとおもった。