内田和俊「最強チームのつくり方 「依存する人」が「変化を起こす人」に成る (日経ビジネス人文庫)」

献本御礼。七年前に書かれた単行本の増補改訂版とのことだが、仕事の現場で問題となってくる人間関係への目配りの良さは、全く古さを感じさせない。
けっこうな意欲作、人によっては問題作だな、と感じさせられたのが、仕事には「職務遂行能力」だけでなく「精神的成熟度」が重要であると最初で述べているところ。もっと直截的な言葉で書くと、精神的に子どもだと仕事はちゃんとできない、ということだ。
これはさすがに、自分は子どもではない、と怒る大人がたくさんいるのではないかと感じる一方で、あるレベル以上の世界に通じる仕事を展開していこうとすると、そうとしかいいようがない部分があるのは確かだ。そして精神的にチームワークが苦手な人々は、たしかに「(立場や道具だてなどの)自分にふさわしいものを得ること」「自分にふさわしいことをすること」、という著者が述べるところの「Have」「Do」が先にあり、「自分で自分をそのままで承認できること」という「Be」が決定的に欠けている。大きな立場に立って大きな仕事をするには、どうしても「Be」のステージに達して、「こうありたいからやる」「こういうスタイルでやる」という内部的なエンジンによって他人を動かしていく必要がある。この考えが一貫してこの本を貫いており、インタビューで話してくださる方々のステージがまさにそういった、精神的成熟度の高い段階におられることがよくわかる。
この「精神的成熟度」を持ち出すと、どうしてもテクニック的なところ、こういう本で読者が知りたいような、ではどのようにチームを作っていけばいいのか、というあたりがお留守になってしまいそうに思われるがさにあらず。著者は、どのようにして異質なメンバーたちと気分的な一体感を形成していくか、というところを「ペーシング」という概念で説明してゆく。このあたり、とても実践的で役に立つ。言葉を変えれば、他人行儀で客観的に他人を動かしていこうとするのではなく、自分はこう思う、自分も一緒に仕事をしたい、という率直で直球なコミュニケーションが大事なのだろうと読んでいて感じた。考えてみれば、そういう態度こそ、自分に自信のない人が避けてしまいがちなものである。自分のプライドを守るため、どうしても対人関係でも理が先に立ち、ドライに対応してしまうのだ。しかしそれだとどうしても人を動かせない。ここにおいても、やはり「精神的成熟度」により他人を動かしていけるかが変わってくるように思われる。
他人とともに仕事をするとは、自分の精神を見つめ直すことでもある。肚の太い人間になって、大きな仕事がしたいものである。