2010-01-01から1ヶ月間の記事一覧

潮木守一「ドイツ近代科学を支えた官僚―影の文部大臣アルトホーフ (中公新書)」

現在の日本にも通じる、アカデミックな世界におけるポスト不足と恵まれぬ若い研究者の一群。ほんの100年前の、ドイツのお話である。 しかし一方で、そうした時代のドイツ科学界からは、血清療法のベーリングや、免疫学のエールリヒら、数多くのスター研究者…

芥川竜之介「地獄変・邪宗門・好色・薮の中 他七篇 (岩波文庫)」

森見登美彦さんの短編集で「薮の中」が取り上げられており、ではついでに読んだことのない芥川の王朝ものを読んでみようと思ったのがこの一冊。 この本のように、時代設定を昔においた小説は、以前は難しいと思って敬遠していた。しかし今考えてみると、現代…

堂目卓生「アダム・スミス―『道徳感情論』と『国富論』の世界 (中公新書)」

この人といえば「見えざる手」という言葉しか知らなかった。規制をなるべく取り払うべきだ、市場に任せるべきだ、というイメージ。それは、経済や市場について語る学者の人が使っていた言葉のイメージでもあった。実際の彼はどういうことを言っていたのか?……

吉田篤弘「つむじ風食堂の夜 (ちくま文庫)」

手品師の父を持ち、急な階段の古アパートの屋根裏部屋に住まう作家。唐辛子やエスプレッソマシーンについて軽く、『楽しい感じ』の読み物を書いて生計を立てている彼が通う食堂には、不思議な街の住人たちが毎晩集う。 記憶の中にある父親の像。それと比べて…

生井久美子「ゆびさきの宇宙―福島智・盲ろうを生きて」

目が見えず、耳も聞こえない「盲ろう」を生きながら、障害について、バリアフリーについて考えている東大教授、福島智さんについて書かれたこの本。 彼がどのような人かは、テレビを見たり話にきいてある程度知っていた。感動を求めて読んだわけではない。ゆ…

済陽高穂「がん再発を防ぐ「完全食」 (文春新書)」

タイトルのとおり、がんを治療するための食事療法について、抗がん剤や外科治療だけではがんは治せない、と考えた外科医が書いた本。 がんの治療の方針は、悩ましいものだろう。手術するか、抗がん剤でいくか、お金や生活の質との兼ね合いもあるだそうし、怪…

沼上幹「組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために (ちくま新書)」

仕事のための仕事を作ってしまう。有能な人ほど忙しく新たな展開をする余裕がない。社内政治に長けた人間が増える。ルールが複雑怪奇化する。…このような組織の腐敗は、程度の差こそあれ長く続いている組織にはありがちだろう。 本書は、日本の組織の本質的…

医学と芸術展(森美術館)

六本木ヒルズの森美術館にて、「医学と芸術展」を鑑賞。 英国より借り受けて展示されているレオナルドダヴィンチの解剖スケッチをはじめとして、医学・薬学・生命科学をモチーフにしたアートや、資料などを展示している。 いずれ死す運命にある人間の身体を…

内田和俊「仕事耳を鍛える―「ビジネス傾聴」入門 (ちくま新書)」

いきなりですがお薦めの一冊です。 こういう本はたくさんありそうで、一方で本当にこれはためになるぞ、と思うものはそんなにない。しかしこの本は、こういう新書には珍しく、といっては悪いかもしれないが、とても有益で充実している。自分を振り返り、明日…

絲山秋子「エスケイプ/アブセント (新潮文庫)」

かなり遅れてその世界に入ってしまった、時代遅れの活動家くずれの主人公。ふと訪ねた京都で怪しげなフランス人の神父と短いが心通う生活を送る。もちろん、二人には二人とも引きずっている過去があって…。 絲山さんらしい、無頼で不真面目な感じの、しかし…

近藤祥司「老化はなぜ進むのか―遺伝子レベルで解明された巧妙なメカニズム (ブルーバックス)」

タイトルの「老化はなぜ進む」は、答えるのが難しい問いとして、現在でも完全にはそのメカニズムは明らかにはなっていない。 この本では、老化の原因となるさまざまな説を紹介するとともに、その中でも最も有力でよく研究された「老化はプログラムされたもの…

水道橋博士「博士の異常な健康―文庫増毛版 (幻冬舎文庫)」

浅草キッドの水道橋博士の話題になった本の文庫化。もちろん(?)、読みたかったのは「ハゲ治療」についてだが、本全体としても内容が濃く、またとても興味深く読めた。 ハゲ治療については、この本が出たあとにもずいぶん「こうするのがよい」という情報が…

本田由紀「教育の職業的意義―若者、学校、社会をつなぐ (ちくま新書)」

大学に入っても必ずしも就職の役には立たない、と感じる人が多いのはなぜか。大学までの教育と、仕事とのリンクを見出しづらい構造になっているのはなぜか。『教育が浪費されている』と考えている著者が、あえて教育に職業的な意義を持たせるべきだと唱える。…