絲山秋子「エスケイプ/アブセント (新潮文庫)」

かなり遅れてその世界に入ってしまった、時代遅れの活動家くずれの主人公。ふと訪ねた京都で怪しげなフランス人の神父と短いが心通う生活を送る。もちろん、二人には二人とも引きずっている過去があって…。
絲山さんらしい、無頼で不真面目な感じの、しかしどこか間が抜けた主人公のテンポのいい独白体がたまらない。

年喰ったら時間のたつのが早くなるなんてよく言うけど、おれは逆だな。若い頃なんて愚かだったからあっという間で、まあ今だって愚かなんだけどあっという間には何も過ぎない。刻まれる傷は深くなっていく、痛みには鈍感になるかもしれないけど。
だからなんだっていうんだ。(p70)

日本の小説と革命(左翼)運動について、この小説の主人公と同じように無頼に、ちょっと不真面目っぽく語る高橋源一郎さんの解説がまたぴったり。これも含めて一冊という感じだ。