近藤祥司「老化はなぜ進むのか―遺伝子レベルで解明された巧妙なメカニズム (ブルーバックス)」

タイトルの「老化はなぜ進む」は、答えるのが難しい問いとして、現在でも完全にはそのメカニズムは明らかにはなっていない。
この本では、老化の原因となるさまざまな説を紹介するとともに、その中でも最も有力でよく研究された「老化はプログラムされたものだ」という考え方について、昨年のノーベル賞を受賞したたテロメア研究を通して解説していく。続いて、プログラムされたものだけでなく、環境要因も老化には関係しているのではないか、という研究もあると述べつつ、老化せずに増殖し続けるガンの研究と老化研究の密接な関係が語られる。
後半はすこしバラバラな感じがあるが、この前半の流れにはひきこまれるものがあって、とてもおもしろかった。細胞分裂周期とそのチェクポイント、幹細胞も含めた老化に関する研究の幅広さがうかがえる。
一般の人が読むには少し難しいのでは、というような比較的詳細な研究内容についても触れられていておもしろい。特に、老化せずに増殖すると考えられているガンの増殖を促進するようなガン遺伝子が逆に細胞老化を引き起こす例のほか、p53という遺伝子の老化への関わりを示していく実験などで見出された、さまざまな原因と結果の絡み合いの様子がエキサイティングだ。ある単純な仮説では説明できない現象が見出された時に、どのように納得のいく仮説を組み上げていくのか、その過程はややこしくも、生命の奥深さを垣間見せてくれてとても興味深いものだ。