2010-01-01から1年間の記事一覧

内田樹「街場の大学論 ウチダ式教育再生 (角川文庫)」

説明不要のウチダ先生による、大学論である。大学「論」とあるとおり、大学の現状について論じ、将来像について語り、学生数を減らして教育の室を高めるべき、といったことをいろいろと提案なさっている。のみならず、他の(著者が勤めている大学以外の)大…

三中信宏「進化思考の世界 ヒトは森羅万象をどう体系化するか (NHKブックス)」

「系統樹思考の世界」「分類思考の世界」に続く第三弾。 前2冊とも、じつに中身が濃くて、自分なりに感想をまとめることがとても難しかった。今回もその思いは変わらない。一方で、3冊目ということもあって、前2冊に貫かれている著者のスタイルや考え方に…

野内良三「日本語作文術 (中公新書)」

とにかく、「はじめに」だけでも読んでみてほしい。 シンプルな短文で、本書のポイントをテンポよくたたみかけるようにまとめてある。ここだけで、「おっ、普通でないぞ」と感じる。著者が自分の主張を徹底的に実践していることを見せることほど、本のよい宣…

小島荘明「寄生虫病の話―身近な虫たちの脅威 (中公新書)」

近年、インフルエンザなど、ウイルスによる感染症の話題が世間をにぎわせることが多い。実際、最近出る本も、自分で関心をもって読む本も、そういうものが多い。 では、なぜ寄生虫?なにやら、古めかしい話題のようにも思われるが、そうではないと著者は書く…

毛利衛「日本人のための科学論 (PHPサイエンス・ワールド新書)」

事業仕分けで、孤軍奮闘の大活躍をなさっていた、日本初の宇宙飛行士である毛利衛さん。日本科学未来館の館長という立場から、日本の科学の現状と未来を語る。この方の主張することはシャープだ。わかりやすければいいとは思わないが、少なくとも、海外の事…

立川談志「人生、成り行き―談志一代記 (新潮文庫)」

立川流家元、立川談志が、自分の人生を、聞き手の吉川潮さんに語った一冊。読んでいて一貫して感じるのは、ほんとうにこの人は、タイトルにあるように人生を計算してやってはいないな、ということだ。だから、単なる偉い人の成功譚みたいに教訓くさくならな…

開高健「夏の闇 (新潮文庫)」

何らかの振り返りたくない体験を経て、人生に「すりきれかかっている」主人公と、孤独を抱えつつ精気に溢れた女。久々に再会した男女の、海外でのひっそりとしたひと夏の生活。底辺に近いところで働きながら、博士号をとろうと勉学にいそしんできた女がこれ…

塩野七生「日本人へ リーダー篇 (文春新書)」

2003年から2006年にかけての、著者の文藝春秋での連載をまとめたエッセイ集。イラク問題から、リーダー論まで、読み応えがある。塩野さんのことを、お堅めの保守主義者と見てしまいがちだったが、反省している。この世界状況において、アメリカにも見習うべ…

Paul J. Silvia「How to Write a Lot: A Practical Guide to Productive Academic Writing (LifeTools: Books for the General Public)」

ほとんど読んだことがない英語のペーパーバックも、読む目的がはっきりしていると読み通せるものである。 この本では、心理学の研究者である著者が、多忙で時間のない研究者がいかにしてコンスタントに論文や申請書、本などを書いていけばいいかについて語っ…

富永茂樹「トクヴィル 現代へのまなざし (岩波新書)」

革命後のフランスに生まれ、アメリカを旅して『アメリカのデモクラシー』を書いた思想家、トクヴィル。 「〈私〉時代のデモクラシー」という本を読んだ時に、気になっていた。革命や、アメリカ合衆国の成立を経て、人びとが平等になっていくと彼らはどのよう…

伊坂幸太郎「砂漠 (新潮文庫)」

あのね、目の前の人間を救えない人が、もっとでかいことで助けられるわけないじゃないですか。…今、目の前で泣いてる人を救えない人間がね、明日、世界を救えるわけがないんですよ(p110) 学生時代に時おり遭遇する、ともにいた仲間が起こした奇跡のような…

内田樹「街場のメディア論 (光文社新書)」

日本に関わるさまざまな問題は、日本のメディアの抱える問題でもある。日本の抱える問題を解決するには、メディアを変えなければならない。 これは、学部生のときに入っていたゼミの先生がいつも強調していたことでもある。 その意味するところを僕がどこま…

林幸秀「理科系冷遇社会―沈没する日本の科学技術 (中公新書ラクレ)」

タイトルだけ見ると、理系の窮状を印象論で嘆くような、よくある本のようにも思えるが、さにあらず。データを出して、国際的な視点から日本の科学技術に関する分析を繰り広げる、意外と骨太な一冊。読めば読むほど、世界中で競争が行われるなかで、どうやっ…

島地勝彦「甘い生活 男はいくつになってもロマンティックで愚か者」

ウェブ上の連載「乗り移り人生相談」で著者のことを知って興味を持った。 週刊プレイボーイなどの編集者を務め、昭和の文豪たちと渡り合って面白い企画を次々と立ち上げた著者の、自由で大人な仕事と生活っぷりを書いたエッセイ。開高健*1にドーバー海峡を泳…

須賀敦子「トリエステの坂道 (新潮文庫)」

「ヴェネツィアの宿」「コルシア書店の仲間たち」に続いて、3冊目の須賀敦子。 仕事が忙しくて心がささくれているとき、本を読む心の余裕がないときほど、この人の本は効く。家族や仲間を通して、人間の生きざまのようなものを、静かな筆致で見せてくれるの…

服部正也「ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)」

40年前の新書である。いまだに増版され、読み継がれているのは驚きだ。日本銀行から、アフリカの新興国ルワンダへ派遣された著者。ルワンダの中央銀行のトップとして、自分の経験と知識の全てをもって政策を実行していこうとする著者。しかしその前に立ちは…

田口晃「ウィーン―都市の近代 (岩波新書)」

ハプスブルグ家の首都として、皇帝と市民がともに主役であった都市・ウィーン。この本は、ウィーンという都市が現在に至るまでの歴史を、都市のあり方をめぐる政治的対立や、その時代時代の政治思想が反映されて建てられた建築物などの紹介を通してみていく。…

原武史「滝山コミューン一九七四 (講談社文庫)」

40年ほど前の、都内のある新興住宅地の小学校。「自由で民主的な」共同体をつくる、というイデオロギー的な思想を打ち出す教師のもと、学年どころか学校全体にも影響を及ぼしていく一つのクラスがあった。班活動と連帯責任、林間学校、集団遊び…。それら一…

長沼毅・藤崎慎吾「辺境生物探訪記 生命の本質を求めて (光文社新書)」

茂木健一郎に「科学界のインディ・ジョーンズ」と呼ばれたという生物学者、長沼先生による、縦横無尽の対談集。 たしかに、彼の写っている写真は、その格好といい、ポーズといい、鋭い目といい、どこかエキセントリックな香りがする。和服も、サハラで買った…

保阪正康「田中角栄の昭和 (朝日新書)」

いかなる分野であれ、大きな仕事をしていこうとするとき、多かれ少なかれ、政治的な動きは必要になる。それは、誰かに何かをやってもらうこと、動いてもらうこと、である。 ぼくでなくても、ある程度仕事をしてくると、よほど自分一人の才能に溢れる人でなけ…

マーク・ピーターセン「日本人が誤解する英語 (光文社知恵の森文庫)」

「日本人の英語」という岩波新書の名著をものしている著者による、日本人への英語指南書。 英語を教える立場でありながら、日本語を学ぶ立場をも突き詰めようとし、二つの言語のニュアンスの違いという繊細さを楽しんでいるような著者。ジョークも交えたその…

ポール・オースター「ティンブクトゥ」

ミスター・ボーンズは知っていた。ウィリーはもう先行き長くない。(p5) 「我が輩は猫である。名前はまだない。」よろしく、短くシンプルな書き出しで始まる。ちなみに、主人公は犬である。とはいっても書いているのはオースターである。その物語の世界は見…

須賀敦子「コルシア書店の仲間たち (文春文庫)」

一年くらい前に読んだ「ヴェネツィアの宿」に引き続き、少し疲れているときこそ、こういう本である。ミラノの修道院の敷地内に、カトリック左派の活動拠点として設立された一軒の書店。そこは、著者にとってかけがえのない友人たちの集う場所であった。 仲間…

中野京子「名画で読み解く ハプスブルク家12の物語 (光文社新書 366)」

先日読んだ本に続いて、少し別な角度からハプスブルク家を学ぶ。歴代の皇帝やその妻を描いたオールカラーの絵画とともに、その人生が紹介される。 歴史上の人物は、名前だけで理解していくのはなかなか大変だ。ハプスブルク家ともなれば、〜何世、などと似た…

江村洋「ハプスブルク家 (講談社現代新書)」

ふとした理由で、ハプスブルク家についていくつか読んでみたくなった。 この本は、講談社現代新書で二〇年前に発売されている。著者があとがきで『日本のふつうの読者にも読んでいただけるような、簡にして要を得た、私なりのハプスブルク史(p246)』を書き…

小宮輝之「物語上野動物園の歴史 (中公新書)」

日本で初めての、そして『世界で最も過密な(p284)』動物園である上野動物園。見世物小屋の性質が色濃かった創立時から100年以上。野生動物や環境の保護が求められる時代に動物園の果たす役割とは。都会の真ん中で戦争などの影響を直接に受けつつ、少しずつ…

森本哲郎「ウィーン―世界の都市の物語 (文春文庫)」

ウィーンといえば何が一番に思いつくだろうか。音楽の都。ドナウの流れるハプスブルグ家の首都。…どうにも曖昧なイメージしか浮かばない。この本を読んで、19世紀末のウィーンにおいて、美術・音楽・建築・哲学や文学など、さまざまな分野で文化が大きく花開…

日垣隆「ラクをしないと成果は出ない (だいわ文庫)」

先日も同じ著者の本を読んだばかりだが(日垣隆「知的ストレッチ入門―すいすい読める書けるアイデアが出る (新潮文庫)」 - 千早振る日々)、自分の仕事のやり方について考えさせられる内容だった。ふとくたびれた折に、読みやすそうな文庫を見つけたので読ん…

田島弓子「プレイングマネジャーの教科書―結果を出すためのビジネス・コミュニケーション58の具体策」

先日、リーダーシップについての素晴らしい本を読んだ(→増田弥生・金井壽宏「リーダーは自然体 無理せず、飾らず、ありのまま (光文社新書)」 - 千早振る日々)。この本で対象にする「プレイングマネジャー」とは、まさにそういうリーダーシップを期待され…

猪木武徳「戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書)」

勉強したいことがたくさんあって、なかなか時間がない。経済もその一つ。簡単には説明しづらいのだけれど、なにかというともっと知っておきたいと思う機会がここ数年増えている。 昨年話題になった経済入門書。戦後の世界経済のあゆみを、実にさまざまな視点…