マーク・ピーターセン「日本人が誤解する英語 (光文社知恵の森文庫)」

日本人の英語」という岩波新書の名著をものしている著者による、日本人への英語指南書。
英語を教える立場でありながら、日本語を学ぶ立場をも突き詰めようとし、二つの言語のニュアンスの違いという繊細さを楽しんでいるような著者。ジョークも交えたその日本語のセンスは、とても日本語のネイティブでない人が書いた本とは思えない。
ピーターセン先生のなにがよいって、繰り返すが、自分の母国語でない日本語を愛着を持って学び、その難しさ・繊細さを実感としてわかっているようなところだ。日本語の本や小説がふんだんに引用され、著者が日本語表現のニュアンスに多大なる興味を持っているのがよくわかる。

そういう考えは、まえがきの最後に英語で書いてある文章にもよく表れている。これはぜひ立ち読みでも読んでみてほしいのだが、簡単に書くと、「私は長年日本にいて日本語の魅力と表現力を楽しんでいる、だからあなたたちも英語の多様性と表現力のおもしろさを発見してくれたら嬉しいです」と書かれている。
そうなのだ。日本語が素晴らしい!とか英語がユニバーサルな言語だ!というのではなく、両方の言語に特徴的な表現力と多様性が存在しているのである。

外国語は、学べば学ぶほど、そのニュアンスの微妙な違いなどに驚くことが多くなる。それは、日本人が英語を学ぶ場合も、逆も然りなのだ。日本語にだって、「意識の違い」「フィーリングの違い」という程度で言葉を使い分け、うまく説明ができないようなものはたくさんある。そういう、外国語学習者の気持ちを自らも日本語を学ぶなかでとてもよく理解していることが、著者の本を特別にしている。

具体的には、「意識の問題」という現在完了と過去の時制の違い(第三章)や、仮定法のニュアンスとwouldの問題(第四章)などは、よく聞く話だが、例文がいいせいか、実にしっくりと頭に入る。また、こちらも微妙な意識の違いで遣いかたが変わってくる一例として、因果関係をあらわすthereforeとandの違いやConsequentlyとAccordinglyの違い(第八章)などが紹介されている。これらも、科学論文の添削をやっている著者ならではの指摘で、あまり聞いたことがなく、自分が書く際にもとても参考になりそうである。

カサブランカローマの休日などの映画のセリフ、著者が考えた荒唐無稽で笑ってしまう実例の文章など、楽しく読める工夫がなされているのもポイントが高い。おすすめ。