2006-01-01から1年間の記事一覧

谷川俊太郎「風穴をあける (角川文庫)」

誰もが知っている詩人である谷川俊太郎のエッセイ集。 彼の詩と文学についての考え方だとか、芸術についてだとかの文章が収められているが、何より心をひきつけるのは、本の後半にある彼の友人への思いをつづる文章だ。その中でも、武満徹ら、すでに亡くなっ…

日垣隆「すぐに稼げる文章術 (幻冬舎新書)」

来年に向けて、最後に良い意味で刺激を受けた。身もフタもないタイトルだが、けっこうその通りの内容である。「すぐに」かどうかはわからないが、「稼げる文章術」であることは確か。帯に本人が書いているように、「手の内」を明かしすぎではないかと心配に…

安田敏朗「「国語」の近代史―帝国日本と国語学者たち (中公新書)」

「声に出して読みたい日本語」以来、伝統・文化ある美しき日本語を学び、その心を大切にしましょう、とかいう偉い方のありがたい言葉をしばしば耳にするようになった。伝統あるものを大切にするのはいいことだ、と言われるとまさにそのとおりで何も言うこと…

絲山秋子「海の仙人 (新潮文庫)」

「イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)」に続いての文庫化で、さっそく読む。小説はあまり読むほうではないが、時々気になるものは手にしてしまう。 この人は、会話がいい。なにげない会話は、登場人物一人一人の人間をうつしながらしかし押し付けがましく…

後藤正治「ラグビー・ロマン―岡仁詩とリベラル水脈 (岩波新書)」

30に達していない僕のラグビーの記憶は、平尾と大八木の神戸製鋼、そして明治の試合をスタンドから見守る老将北島監督の顔から始まっている。思わず買ってしまったこの本は、北島監督でも、並び評される早稲田の大西監督でもなく、平尾と大八木を輩出した…

鹿島茂「社長のためのマキアヴェリ入門 (中公文庫)」

マキアヴェリの「君主論」は、「君主」を「社長」と読み替えることで、現代にも通じるビジネス書として読めるのではないか。そう考えた著者が、君主論のエッセンスを読み解いたのがこの本。 「社長のための」とあるが、世の社長の数などたかがしれているし、…

契約更改で主張するのは、自分のためだけではない

プロ野球の契約更改が盛んな時期だ。振り返ってわが身も、来年の処遇を交渉すべき時期で、悩ましい。 よくプロ野球選手の年俸に関して、「チームのバランスがあるから」という球団関係者のコメントがある。長年やってきた選手よりも、ぽっと出の選手の給料が…

樋口敬二編「中谷宇吉郎随筆集 (ワイド版岩波文庫)」

中谷宇吉郎は、北大での人口雪の研究が有名な物理学者であり、寺田寅彦の弟子でもある。 寺田寅彦の随筆を読んだことがあるだろうか。夏目漱石の弟子ともいえる彼の随筆は、科学的なものの見方というものがどういうものかをわかりやすい言葉で伝えてくれてい…

説教くさいぞ君は

どうして人は自分が正しいと思い始めると説教くさくなるのだろう。自分に自信がなかったり、謙虚になれているときは周囲を見る余裕があって、話していても説教くさくならない。そういうときの言葉には人を納得させる力があるのに、優位な立場にたった後の言…

高橋哲哉「教育と国家 (講談社現代新書)」

今さら、ではなくて、今だからこそ読んでもいいのかもしれないと思い、読んでみた。 「最近の子どもの起こした痛ましい事件は、自由を重んじてきた戦後教育のゆがみが出たものだ」「だからもう一度、公共性や社会を愛するという大事なことを教えねばならない…

山田ズーニー「あなたの話はなぜ「通じない」のか (ちくま文庫)」

「ほぼ日刊イトイ新聞」で長らく連載をしている著者の、3年前の本が文庫化。 小論文の指導に、コミュニケーションという観点を持って長く関わっている著者の文章からは、ネットでの連載でもそうなのだが、その心の熱さが伝わってくる。他人とのコミュニケー…

野地秩嘉「エッシャーに魅せられた男たち 一枚の絵が人生を変えた (知恵の森文庫)」

羽生さんのお勧めの帯があって、ミーハーにも買ってしまった(解説も書いておられる)。 錯視などを利用しただまし絵、一定のパターンが繰り返され不思議な雰囲気をかもし出すポスター…。版画家、エッシャーの作品は、作者の名前こそ知らねど誰しもが一度は…

村松秀「論文捏造 (中公新書ラクレ)」

韓国で、そして日本で…最近バイオ系の研究で話題になった論文の捏造問題。 しかし、巻き込んだ人の規模も、研究のスケールも段違いの捏造が物理の世界にあった。この本は、NHKで放送されさまざまな賞を受賞した、「史上空前の論文捏造」というノンフィク…

陳舜臣「巷談 中国近代英傑列伝 (集英社新書)」

三国志の人物ならみんな良く知っているが、それ以外の中国の英雄たちは余り知られていない、という前書きにドキッとしてしまった。確かに、項羽と劉邦くらいは知っているし、本書の著者の「十八史略」くらいは読んだことがあるけど、それにしても。この本で…

自分ひとりの成功は難しくない

仕事をしていると、同期の間でも、たった一年くらいで、あがった成果や、上司からのおぼえの良さに差が出たりするのは仕方がない。 人はその違いを才能とか努力のせいにするだろう。でも、実は一年二年くらいの成果の差は、ちょっとやっている仕事が身に合わ…

久住昌之, 谷口ジロー「孤独のグルメ (扶桑社文庫)」

そこらで評判のマンガの文庫本が、ふと入ってみた本屋のレジに積んであるのを別の本を買ってレジに出すときに発見してしまった。思わず、「あっ、これもください」と店員に追加で渡すと、少し怪訝な顔をされた。 本屋ですら、ふらっと入ったお店の魅力、そこ…

小川洋子「深き心の底より (PHP文庫)」

ゆっくり、読み進んだエッセイ集。ナチス迫害下の隠れ家で日記を綴ったアンネへの思い、自分を静かに支えてくれている神への思いが伝わってくる。 小説は、ひとつづつ言葉の石を積み上げていく作業なのだという。旅行についてのエッセイでは、とにかく一人に…

「私を助けてくれ」なんて言えないものだ

人は、例えそういう状況をもたらしたのが構造的な問題であろうと、「自分がかわいそうだ、助けてくれ」なんてことは言い出せないものだ。 いじめにせよ、仕事上の苦難にせよ、よほど隠れた形で行われない限り、誰かが苦しんでいること・大変そうなことは少し…

海原純子「こころの格差社会―ぬけがけと嫉妬の現代日本人 (角川oneテーマ21)」

経済的に潤うものと、貧しいものの差がはっきりとしてくる格差社会。 では潤っているものは気持ち的にも余裕があるのか、といえば、第一章に「勝ち組のゆううつ、負け組のいら立ち」とあるように、そうではないのだと著者は述べる。誰しも、テレビに出てくる…

恩師にばったり

ハードな毎日。夕方に、ふとおなかに何か入れようと外に出ると、しばらくお会いしていなかった恩師にばったり。 「ちょっとここでご飯食べていこうと思って」と笑顔で、いつもの柔らかい口調で話してくださる。先生と呼べる人は小学校から数えるとかなりの数…

小島寛之「文系のための数学教室 (講談社現代新書)」

先日「入門!論理学 (中公新書)」を読んだ勢いで、数学の「おいしいとこ取り」をもう少ししてみた。 高校の数学をわかりやすく解説したような章もあれば、ほとんど数学と関係ないのではないか、というほど数式が出てこない章もあるのがタイトルで「文系のため…

保阪正康「“敗戦”と日本人 (ちくま文庫)」

敗戦時にその職にあった軍人、政治家、在野の文学者。こうした人びとが、どのように敗戦を見つめていたのか、日記などの資料から読み解いていく。もちろん、人は自分に都合のいいことしか書かないようにするものだ。 敗戦時の彼らもまた、自分に降りかかる責…

手帳の11月のページ

休日が分からなくなって久しい。木曜日になって、あれ、明日は休日だったっけ、とかそういうことがよくある。 そんなわけで、そういえば11月は休日が何日かあったような、と思い出し、朝、電車の中で手帳を開いてみた。普段あまり書かない、ひと月見開きの…

長谷川眞理子「ダーウィンの足跡を訪ねて (集英社新書)」

観光の際、その土地で生まれ、あるいは活躍した偉人の足跡をたどるのは楽しいものだ。鹿児島なら西郷さんが最後を遂げた洞窟などをまわったり、福島なら野口英世の生家を訪れたり。青森なら太宰治だろうか。人それぞれの興味や思い入れによって、ゆかりの地…

野矢茂樹「入門!論理学 (中公新書)」

論理学といっても、ああだこうだと口うまく人をいいくるめるための学問ではない。それはそうだろう、と思っていても、どこかそのような響きを感じてしまうところに、「論理」という言葉の近寄りがたさがある。 著者もはじめの章で「論理的とはどういう意味か…

身体で紡ぐ歌

週末に、Coccoのライブをテレビで見た。 もしもぼくが女性のシンガーソングライターだったら、あの人がライブで歌っているのを見たら、「絶対この人には勝てないなぁ」と思うに違いない。 歌の上手い人はいくらでもいるのだ。ただ彼女は、カイコじゃないけれ…

向田邦子「男どき女どき (新潮文庫)」

「おどきめどき」と読む。向田邦子の最後の短編&エッセイ集。飛行機事故で亡くなってから掲載されたものもあり、遺作、という感じもある。 短編は、ますます怖い4編入り。初めて読むドキドキ感も、繰り返し読んで味わう余韻もまたたまらない。 エッセイは…

自分で自分に締め切りを

知人から個展のお知らせが絵葉書で届いた。 アーティストだからといって、個展を開く必要なんてない。もちろん個展には、自分の仕事を見てもらって、使ってもらえる人がいないか営業するという意味合いがあるので、開くことには大きな意味があるだろう。でも…

立場や地位がなくなる空間

人と飲んでいてどういうことが楽しいかって、相手が真剣に仕事をしている姿が全く想像できないときだ。 職場の人や、同業者くらいだと、だいたいやっていることも、日々どういうことで苦労するかもだいたい想像できる。生きている間の半分以上を占める、働い…

日々の生々しい思いが表れてしまう文章

何が嫌になったって、自分が普段の日々で生々しく思っているやりきれなさだとか怒りだとかふとした嫉妬だとか、そういう感情が「全く関係ないことを書いている」と自分が思っている文章にも出てしまっていたことが、である。 そのときにはどの文章もそれなり…