小川洋子「深き心の底より (PHP文庫)」

ゆっくり、読み進んだエッセイ集。ナチス迫害下の隠れ家で日記を綴ったアンネへの思い、自分を静かに支えてくれている神への思いが伝わってくる。
小説は、ひとつづつ言葉の石を積み上げていく作業なのだという。旅行についてのエッセイでは、とにかく一人になって、一人で寝られる時間、ただ小説を書く時間が欲しいと書いていて、とことんこの人はその地道な作業が好きなのだなと感じた。言葉を丁寧に、苦しみながら紡ぎだして積み上げる作業はとても苦しいものだという印象を受ける。将棋の羽生さんが言っているように、継続できる情熱こそが才能ならば、そんな作業を生き甲斐として続けていけるこの人こそ、小説を書く才能に恵まれた人と呼ばれるにふさわしいのかもしれない。
こういう、静かなエッセイを体が欲するときもある。