久住昌之, 谷口ジロー「孤独のグルメ (扶桑社文庫)」

そこらで評判のマンガの文庫本が、ふと入ってみた本屋のレジに積んであるのを別の本を買ってレジに出すときに発見してしまった。思わず、「あっ、これもください」と店員に追加で渡すと、少し怪訝な顔をされた。
本屋ですら、ふらっと入ったお店の魅力、そこで出会う一期一会の本たちがある。食べ物屋もしかり。
一人でふと入ってみた飲食店で、ふと注文したものを食べる。これがおいしかったときのうれしさ。いまいちだったときのわびしさ。個人営業の商人をやっている主人公が一人でふらっと入った飲食店でなにかを食べる…ただそういった短編をおさめただけの一冊なのに、そういった「ひとりでごはん」の時のもろもろの感情が思い起こされる。
谷口ジローさんの絵は、好きだなぁ。彼が表現する、一人の男が、何かを考えている顔がたまらない。一通り揃えて読んだ「坊ちゃんの時代」も味わい深くてよかったけど、小説家や文学者のみが一人で物思いをすることが似合う人間だとは限らない。ただ仕事に打ち込む人間が一人でなにかを食べているときだって、そこからはじゅうぶんに愁いを感じられるものなのだ。