陳舜臣「巷談 中国近代英傑列伝 (集英社新書)」

三国志の人物ならみんな良く知っているが、それ以外の中国の英雄たちは余り知られていない、という前書きにドキッとしてしまった。確かに、項羽と劉邦くらいは知っているし、本書の著者の「十八史略」くらいは読んだことがあるけど、それにしても。この本で紹介されるような中国近代史の人物たちにはあまりにもなじみがなさ過ぎる。隣国で英雄とされる人物たちがどのように国を作り上げていったのか、はとても興味深い歴史であるはずなのに。
とにかくも読み始めたこの一冊だが、これが面白い。孫文魯迅しか知らなかった読者にも、西洋との出会いから現在に至るまで、他国にさんざん揺さぶられながらも、さまざまな人間が国のかたちを模索してきたのだな、ということが身に沁みて感じられる。隣国であり、戦争を戦った相手であり、そして亡命先として多くの人が選んだ国、日本。彼らがどのように日本を見ていたのか、日本は彼らにどう接してきたのか。現在の日本と中国の関係を考える上でも、読んでおいてよい本。
出てくる人物は多いが、一つ一つのエピソードが興味深く、一冊読むと人物同士のつながりや歴史が何となくつながってくるのがさすがである。

小説十八史略(一) (講談社文庫)

小説十八史略(一) (講談社文庫)