契約更改で主張するのは、自分のためだけではない

プロ野球の契約更改が盛んな時期だ。振り返ってわが身も、来年の処遇を交渉すべき時期で、悩ましい。
よくプロ野球選手の年俸に関して、「チームのバランスがあるから」という球団関係者のコメントがある。長年やってきた選手よりも、ぽっと出の選手の給料が高くなってしまったらそれは確かにバランスが悪い。
しかし、下手に「バランスがあるからこんなもんだよな」と周囲の事情を察して自分で納得してしまうのが、果たしてこの世を生き抜くのにいいかといえば、やっぱりそれは違うのだろう。いい人になったところで、得をすることなど何もない。どのくらいならもらえそうだな、と事情を察した上で、できるだけ納得してもらえるように、自分に有利になるように、自分の仕事が立派なものであったことを主張できるようにしたほうがいい。
たまたま、前例がないから評価が低いだけかもしれない。こういう仕事はきついのだから、もっともらえて当然だ、と論理的に主張することは、自分のためだけでなく後に続く後輩のためでもある。


中日ドラゴンズに、岩瀬というピッチャーがいる。つい最近、3億8千万という、日本人投手最高年俸で契約を更改した。この人が、大好きなのである。
岩瀬仁紀 - Wikipedia
細身の左腕からすっと出てくる速球とスライダーに、芯に当てられる選手はそう多くない。この人は、ずっと「中継ぎ」、というポジションを勤めてきた。過去、松坂のように、「先発」で完投できる、一人で投げきれる力を持つ人のみが真に評価されるべき一流のピッチャーであると考えられていた時代があり、「博士の愛した数式」「スローカーブを、もう1球」にも出てくる江夏が「抑え」というポジションを世に知らしめた。しかし、勝ち試合で先発から抑えにつなぐ投手の評価が高まったのはごく最近、この人の力によるところが大きい。
彼がどこまで契約更改で自分の役割を訴えたかはわからない。時代が中継ぎ投手を求めるようになったということもあるだろう。しかし、彼がその持ち場で誰も勝てない成績(8年連続50試合とは、鉄腕としかいいようがない)を残し、毎年自分の立場を謙虚にでも主張してきたのは確かだろうと思う。そのおかげか、いまや中継ぎピッチャーでも立派に1億円を稼げる土壌ができた。岩瀬なくして、藤川球児のいまの評価はなかっただろう。

話がずれたが、自分の持ち場で最大限の仕事を続けていくこと、そしてその仕事の真価を論理的に説明して評価してもらうこと。この二つは、どちらが欠けてもだめなのだ。自分のやった仕事への評価を高めるのは、決して自分のためだけではない。もちろん、誰が見てもすごいと思えるような仕事をしてこそ、ではあるが。