向田邦子「男どき女どき (新潮文庫)」

「おどきめどき」と読む。向田邦子の最後の短編&エッセイ集。飛行機事故で亡くなってから掲載されたものもあり、遺作、という感じもある。
短編は、ますます怖い4編入り。初めて読むドキドキ感も、繰り返し読んで味わう余韻もまたたまらない。
エッセイは、短くてさらっとしたものが多い。
花束、という森繁久彌さんのすごさを書いた短編が、最近聞いたニュースもあって、印象深かった。
向田さんは、一緒に仕事をしていた森繁久彌さんに一人の「色白の青年」が引き合わせられる風景を目にする。青年は尊敬する大先輩との初対面に緊張していながらも、その謙虚な態度と巧みな話術にひきつけられるものがあった。
その後20年近く経ち、すっかり人気のでたその青年とパーティーで会って話した向田さん、彼が森繁さんとの初対面のことを感慨無量の表情で「覚えていますとも」と二度繰り返すのを見て、その思い入れの深いことに感じ入る。
20年もの間、仕事と人生の支えとなるような言葉。どんな言葉だったのだろう。そして、そんな言葉を後輩にかけてあげられるような人間になってみたいものだ。
ちなみに、その「青年」の訃報をちょうどこの本を読み進めている最中に耳にした。死は人の定めとは言え、自分より後輩の人間が先に亡くなっていく気持ちというのは複雑だろう。
藤岡琢也 - Wikipedia