日垣隆「すぐに稼げる文章術 (幻冬舎新書)」

来年に向けて、最後に良い意味で刺激を受けた。身もフタもないタイトルだが、けっこうその通りの内容である。「すぐに」かどうかはわからないが、「稼げる文章術」であることは確か。帯に本人が書いているように、「手の内」を明かしすぎではないかと心配になる。
句読点や用語の使い方、論旨の進め方など、わかりやすく書くにはどうしたらいいかという基本が丁寧にまとめられている。読み返して自分が文章を書くときに常に意識していけば、文章力を向上させられるのは間違いない。また、わかりやすい、というあたりまえのことだけでなく、いかにして魅力的な文章を書くのか、というコツも公開しており、こちらもぜひモノにしたいところだ。
自分の得意なことで稼げることがプロだとすれば、この本は、文章のプロになるための指南書である。わかりやすく、魅力的な文章のコツを自分のものにしたうえで、いかにしてそれで稼いでいくか。そのために大事なのは、たとえば、テーマはどう選ぶのか、であったり、自分のライフワークにしたいことと、食べるためにやることの関係はどう捉えればいいのか、であったりする。また、長く一つの仕事を続けるには、力の配分を考える必要があるし、うまく支援者(文章を書く人ならば、編集者)の理解を得る必要もある。そういった、自分で何かを生み出して稼ごうとする人間が一度は考える問題について、著者なりの見解も示してあるのがまたいい。それを見て、読者は自分の仕事上のスタンスについて改めて考えさせられる。
この本に書いてあることを徹底してやっていくには、自分を常に厳しく律するとともに、書くことで生きていくのだという割り切りが必要であって、それはなかなか普通の人間には著者と同じほどにはできないだろう。著者には、この本に書いてあるくらいを公開して誰かが文章を書いて稼ぐようになれたところで、自分は自分で文章を書いて稼いでいける、自分の稼ぎとは別な問題だという自信がある。だから、ここまで手の内を明かせるのだ。これをありがたく自分のものにしない手はない。
この本をどう読めばいいかは、最後の章で、著者が福田和也の文章術の本を紹介するときに書いている文章をそのまま引用すれば良い。この書評は、その引用で終えることとしたい。
どんなに自分の文章にそれなりの自信がある人でも、この著者ほどしっかり稼いで仕事にしている人はそういるまい。まずは、買って読み、そして使うべきだ。

大量に読んだり大量に書いたりしている人には、文筆のノウハウがおのずと蓄積されていきます。それも「極端さ」のあらわれですね。
この本に書いてあることのうち最低10個は即日、採り入れましょう。他人のアイデアはフムフムとただ読み流すのではなく、すぐ使うべきです。
使えないアイデアは、アイデアではありません。(p198-199)