小島荘明「寄生虫病の話―身近な虫たちの脅威 (中公新書)」

近年、インフルエンザなど、ウイルスによる感染症の話題が世間をにぎわせることが多い。実際、最近出る本も、自分で関心をもって読む本も、そういうものが多い。
では、なぜ寄生虫?なにやら、古めかしい話題のようにも思われるが、そうではないと著者は書く。

本書で述べたかったことは、寄生虫病は日本と世界にとって決して過去の病気ではなく、私たちが直視すべき現代病であるということである。
世界を仮に開発途上国と先進国というように「南北」にわけてみれば、寄生虫病の蔓延の仕方に濃淡はあるものの、これらの国々を行き交う人々の数だけをみても互いに無関係ではあり得ない。先進国に「輸入病」の形で持ち込まれるものも多い。(p229)

実際、近年の新たな寄生虫病の事例の紹介からはじまるこの本。寄生虫病とその免疫学の研究者である著者は、幅広いエピソードで寄生虫病に関心を持つことの重要性を訴える。

日本でも、衛生状態が悪い戦前などは、多くの人が寄生虫病をわずらっていた。しかし、本書でも紹介されているように、多くの医学者の努力によりそれが根絶されてきた歴史がある。一方で、温暖化により、寄生虫を媒介する昆虫や小動物の生息域が広がっていく。さらには、経済のグローバル化によって、人々の移動がますます盛んになる。それに伴い、寄生虫病がまたわれわれを悩まさないとも限らない。
この本で紹介される、「目に見える虫」の話はおぞましいとともに驚きで、そうした危機意識をいやでも感じさせてくれる。同時に、寄生虫病の免疫学の創世記の話や、寄生虫病を制圧してきた日本の医学者たちの挿話、そうした日本の戦略が世界に貢献しうること、といった話は、古めかしいとすら思われてしまう寄生虫病の研究が世界的には未だ重要であることを説得力をもって語ってくれる。

そういえば、寄生虫とは目に見えるものだけではないのである。現在も多くの人を悩ませ、その制圧に向けた研究が盛んなマラリアについても、この本では媒介する蚊の話とともに、分子生物学の先端の話まで盛り込んで読ませてくれる。おもしろかった。