野内良三「日本語作文術 (中公新書)」

とにかく、「はじめに」だけでも読んでみてほしい。
シンプルな短文で、本書のポイントをテンポよくたたみかけるようにまとめてある。ここだけで、「おっ、普通でないぞ」と感じる。著者が自分の主張を徹底的に実践していることを見せることほど、本のよい宣伝になるものはない。

実際読んでみると、あまりの発見の多さに、付箋だらけになってしまいまとまらない。この本ではわかりやすい文の書き方から、段落構成、論旨展開までに話が至っている。しかし、一番役に立つのは、最もミクロな、文内の単語の配列の仕方、読点の打ち方といったアドバイスである。
そうしたアドバイスは全て、曖昧さを回避し、一読して意味がわかるような文を書くことを目的としてなされている。これは、仕事で文章を書く時に一番心がけていることなので、とても助かる。

例えば、「日本語の作文技術」でも詳細に説明されていた読点の打ち方については、曖昧さを回避する、という目的に組み直して説明してくれる。すなわち、『文の曖昧さを処理するには読点と語順という二つの方法がある。(p58)』と明解に述べてくれる。
さらに、日常でもよく悩む「は」と「が」の使い分けについても、いろいろな側面から腑に落ちるような説明がなされる。なるほど、と思いつつ読めることは確実である。

ただ、これをすらっと自分の文章に生かせるようになるには、相当の時間をかけて、意識してできるようにしていく練習が必要だろう。それでも、そういう気にさせてくれるだけでもすばらしい。時おり読み直して自分の文章の改善を心がけたいものだ。

実践的なことから離れてこの本を読むとき、個人的におもしろいと感じることがある。それは、この本の方法が実に「英作文的」であるということだ。著者も「日本語を外国語として見る」と述べているように、わかりやすく曖昧さを排除して日本語を書くとき、その方法は英作文に似てくる。これは英語が論理的である、というよりは、論理的に書くときの方法がある程度万国共通であることによっているのかもしれない。
文は短く。他の人から良い文は借りてみる。接続詞で文と文の関係をわかりやすくする。無生物主語を有効に使う。どれも英語を書く時に意識していることばかりだ。この本を読んでいくと、日本語だけでなく、日本語で表わせるようなことを、わかりやすく英語で書くことにもつながっていく。
日本語に敏感になることこそ、英語をうまく書くための一里塚といってもいいかもしれない。日本語、英語を問わず、広く仕事で文章をわかりやすく書きたい人はぜひ。