三中信宏「進化思考の世界 ヒトは森羅万象をどう体系化するか (NHKブックス)」

系統樹思考の世界」「分類思考の世界」に続く第三弾。
前2冊とも、じつに中身が濃くて、自分なりに感想をまとめることがとても難しかった。今回もその思いは変わらない。一方で、3冊目ということもあって、前2冊に貫かれている著者のスタイルや考え方に慣れてきたな、そのおかげで純粋におもしろく読めているな、という思いは常にあった。
実際この本は、もちろん独立で読んでもおもしろいのだろうが、前2冊を受ける形で思考が展開される感じが、非常にしっくりきた。


ヒトがさまざまに描いてきた、生物や家系や音楽などを位置づけるための体系図や分類図。見ているだけでも楽しいそうした図から見えてくるのは、生物学の分野にとどまらない、進化について考える思考の流れである。

そもそも由来関係や系譜関係を表現する手段としての「樹」のもつ図像学的な背景を探ってみると、現在の私たちが想像する以上にその根が深いところにあることがわかる。(p110)

進化学というと、ダーウィンからはじまる流れはよく本で読んだりするが、本書のスパンはもっともっと広い。ダーウィン以前からある進化思考の歴史の流れを見せてくれている本書ほど、温故知新という言葉が似合う本もなかなかない。
今われわれが新しいと思って研究していることも、過去からの科学者たちの思考の流れからすると、たいして新しくないことだったりする。普段さかのぼらない時点までさかのぼってみることで、見えてくるものがある。


科学と文学について(第一章3節)、科学と観念論について(第四章3節)、科学と歴史について(第五章1節)など、あまり考えたことのない科学と他分野とのつながりについて考えさせてくれるのも、著者の書くものの刺激的なところだ。自分が行っている自然科学と、他分野の社会科学や芸術との関係を考えていくこと。進化学はまさにそういう動きが広く見られた分野であると理解している。専門をつきつめていくとともに、そういう学際的な考え方に触れて思考を広げていくこともまた、科学のおもしろさと深さを味わうのにはとても重要なことのだろう。