Paul J. Silvia「How to Write a Lot: A Practical Guide to Productive Academic Writing (LifeTools: Books for the General Public)」

ほとんど読んだことがない英語のペーパーバックも、読む目的がはっきりしていると読み通せるものである。
この本では、心理学の研究者である著者が、多忙で時間のない研究者がいかにしてコンスタントに論文や申請書、本などを書いていけばいいかについて語っている。

著者の言うところを簡単に述べれば、平日に「ものを書く時間」を設定して、その時間は机に向かう習慣をつけるのだ、ということである。その時間は、授業や会議、ミーティングのない時間に設定する。そして、その設定した時間には、学生の相談やメールチェックを含め、他のことをしてはいけない。
週末や休みになれば時間が取れる、論文などの書きもの仕事はそのときに一気にやってしまえばいい、と考えるから、いつまでたっても書けないのだ、と著者はいう。村上春樹がエッセイなどでよく述べているように、書くのはマラソンといっしょだ。ペースを乱さず、コンスタントにこつこつとやっていくことだ。それは、小説家だけでなく、研究者も同じなのである。

しかしこれは簡単なようで、むずかしい。午前中の2時間は書きものにあてる、と決めても、ネットにつながっているパソコンがあれば、そちらに気を取られるかもしれない。学生が研究の相談に来れば、なかなか断りづらい。電話もかかってくるだろう。
著者は、そうした言い訳に一つ一つ丁寧に答えてくれる。どういう環境を作って、まわりの人にどう言って、どのように自分で計画を立てれば言い訳ができなくなるか、一つ一つ読者の「そうは言っても…」という言い訳を潰してくれる。これを一冊読み通して、なお書くべき論文なり本の一章なりを書けないのであれば、もはや生産的な仕事ができる研究者になることは諦めた方がいいくらいである。

書く動機づけだけでなく、実際にどういう風な意識で書けばいいか、についても詳しい。投稿論文につけるレターはどうすべきか、再投稿の際の心がけは(査読者のコメントに対して、(1)指摘されたポイントを要約する(2)どう対処したかを記述する(3)対処によりどのように指摘が解決されたかを書く)、など、ポイントを押さえたコメントはとてもためになる。そういった淡々とした記述と同時に、科学の世界ではダメだしやrejectは当たり前だから、どれだけ気持ちを冷静に保って前を向いていくかが大切だ、などととても勇気づけられることを書いてくれるのが嬉しい。”The more papers you publish, the more rejections you receive.(p101)”という一文はしっかり覚えておいて、自分を励ましていこうと思う。

この本が対象としているのは、プロの研究者だけではない。学生とて、コンスタントにものを書く習慣をつけるべきである、として、彼らへ向けたアドバイスもしっかり書かれている。書くものがなければ、ボスや先輩の周りをうろうろして、彼らがためている書きものをもらえばいい、とか、長期的にどう言う研究をしたいか、について内省する時間にあててもいい、などとそのアドバイスは非常に具体的で実践的だ。

学生からプロの研究者、ビジネスパーソンまで、生産的にものを書いていきたい全ての人にお薦めの中身の濃い一冊。