塩野七生「日本人へ リーダー篇 (文春新書)」

2003年から2006年にかけての、著者の文藝春秋での連載をまとめたエッセイ集。イラク問題から、リーダー論まで、読み応えがある。

塩野さんのことを、お堅めの保守主義者と見てしまいがちだったが、反省している。この世界状況において、アメリカにも見習うべき点とそうでない点があること、こんな状態の日本でも海外に存在感を示す方法がないではないことを、日本だけをけなすのでもなく、昔に戻れと言うのでもなく、実にバランスよく語っている。
連載時にあったさまざまな国際政治のできごとに関して述べる意見は、現在の世界を見るうえでも実に参考になる。話題としては多少古いものでも、今に通じる国際政治のキモを考えさせてくれるのである。『はた迷惑な大国』中国にどう対するか、というあたりなども、まったくもって最近のニュースとかぶるところがあり、そのキモは全く変わらないのだなと感心するばかりである。wikipediaでいろいろ調べながら読んだので、おかげさまでとても勉強になった。

そうした提言において一貫していることを例えば一つあげると、戦争・軍事も政治の一つの手段だという割り切りがある。戦争となると賛美者か忌避者の言う言葉しか聞こえなくなる日本において、あくまで国際政治の一つのオプションとして戦争というものがある、それから目を背けてはいけないと語る著者の現実認識には相当の敬意を払うべきでは、と僕の直感は訴える。

忌避されがちだが一つの手段として必要なもの。同じようなものとして著者は、政治における「権力」についても語る。力を持って、どう使うか。それを考えねば何も先に進まないではないか、というような提言は、国際政治の場だけでなく、組織の政治においてもおおいに参考になるものだと感じた。

どちらにせよ、マキャベリズムというのか、リアリズムというのか、冷徹に現実を分析して、いかにして問題を絞り、有効な手段をとっていくか、という視点は、実に小気味よい。そういう目から見た小泉純一郎論なども、ニヤッとしてしまう。一方で、感情に左右されたり、自分のことで頭がいっぱいになったり、どこかそうなりきれないわれわれには耳が痛い言葉であふれている。

やはり、歴史を知るものは強い。リアリストになるためには、過去をしっかり知る必要があるのである。特に強く宣伝しているわけでもないのに、著者の本をもっと読んでみようかな、と思わせるあたり、うまい。