猪木武徳「戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書)」

勉強したいことがたくさんあって、なかなか時間がない。経済もその一つ。簡単には説明しづらいのだけれど、なにかというともっと知っておきたいと思う機会がここ数年増えている。
昨年話題になった経済入門書。戦後の世界経済のあゆみを、実にさまざまな視点からたどっていく。日本や西欧諸国についてだけでなく、アジア・東欧・アフリカの経済についてもかなりの詳細さで語られており、まさに「世界」経済史となっていて勉強になる。
戦争からの復興、冷戦、その後の経済競争、新興国の発展を経てグローバル化の現代へ。ばらばらなようなテーマを「自由と平等の価値の相克をいかに解決するか」などのいくつかの視点が繋いでいる。戦後の歴史が、現在の世界経済を見るにあたってのいい見取り図を提供してくれる。

この本で何より強調されていると感じたのが、政治と経済の深い結びつきだ。政治体制や、政治家の政策によって、経済の状況は大きく変わる。このことを、世界のあらゆる国の実例がいみじくも示している。アフリカなどでも、国家の体制が似ていても、国を動かしている人たちの政策によって、その国が経済的に恵まれるかどうかは全く違ってくる。
参議院選挙で国政返り咲きを果たした片山さつきさんが、「経済を知っている人間こそ政治に必要」と語っていたのは印象的だった。経済学が、必ずしも万能ではないだろうことはわかる。しかし、著者が語っているように『経済学は過去八〇年の間に確実に進歩した』というのも確かだろう。そして、その役割も、政治と経済の結びつきが濃くなってきていることで、より重くなってきているのかもしれない。
政治家にも、外交や社会保障などさまざまな専門というものはあろうが、どれも経済との関わりのないものはないように思える。経済をどれだけ知っているかが、政治家の重要な素質として問われる時代になるだろう。同時にそれは、経営者などについても言えるのではと思うのである。

とはいえ、この本じたいは、難しいことはあまりなく、専門的なこともそれほど知らなくても、読み物として楽しく読めた。