林幸秀「理科系冷遇社会―沈没する日本の科学技術 (中公新書ラクレ)」

タイトルだけ見ると、理系の窮状を印象論で嘆くような、よくある本のようにも思えるが、さにあらず。データを出して、国際的な視点から日本の科学技術に関する分析を繰り広げる、意外と骨太な一冊。

読めば読むほど、世界中で競争が行われるなかで、どうやって科学技術を生かしていこうか、という国際的な視点が重要だと感じさせられる。世界の状況をよく見たうえで、お金をどこに集中させるべきなのか、国際標準になるようなものをどう提言していくべきなのか、優秀な人を集めるにはどのようにすべきなのか…といったことを考えていかねばならない。

よく、そういうことをやるには政府の役人がバカだとか、そういう物言いを耳にする。個人的には、何人かの政治家や官僚だけで、そこまでの国際的な視点にたった戦略を立てていくなど不可能だと思っている。現場の科学者や技術者が、どういう点で困っていたり、こういうことが必要だと考えている、というようなことを面倒くさがらずに上に上げていく必要がある。それは、純な研究者などが一番嫌がる根回しと政治の世界であるといってもいい。声を上げても届かないなら、届くように宣伝したり、協力したり、する必要がある。

案外、現場の理科系がそういう泥臭い政治的な仕事から逃げているから、あまりわからない人がわからないままに戦略を建てることになるのだろうかとも思う。本当は、米国のように、そういう戦略を専門にやっていくスペシャリストがいるべきなのだろうが、そういう仕組みになっていないのだから、誰かがやるしかない。うちのボスもよく言っている。「まだ現場にいる私が大学全体の仕事をやらねばならないのはおかしいが、でもやるしかない」と。研究がとても好きな彼を知っているだけに、ぼくはその言葉にとても共感する。

まだまだ勉強が必要だ。そして、どんなに面倒くさく、自分の利益にならなくても、後の人のために、研究と並行してそういう仕事を引き受けていくことが絶対に重要だ。そういう決意を新たにした一冊。