小宮輝之「物語上野動物園の歴史 (中公新書)」

日本で初めての、そして『世界で最も過密な(p284)』動物園である上野動物園見世物小屋の性質が色濃かった創立時から100年以上。野生動物や環境の保護が求められる時代に動物園の果たす役割とは。

都会の真ん中で戦争などの影響を直接に受けつつ、少しずつ飼育技術が進歩し、市民や子どもへの教育的試みが増え、全国の動物園の先駆けとして成長していく歴史は、時代の変化をよく反映している。自然教育の拠点としての動物園の役割が、より実感された一冊。

それにしても、けっこうマニアックなところがある本でもある。
というのも、著者の興味か、過去に動物園で飼育されていた、知られざる珍しい動物の記録がたいへん充実しているのだ。
繁殖ということをあまりきちんと考えていなかった戦前に、短命で亡くなったさまざまな珍しい動物たち。こんなのまで日本にいたのか、というような動物や、それらが初めて日本に来た際のエピソードなどが、写真満載で紹介される。動物が持込まれる際や、それが引き起こす事件に、歴史的な事件や歴史上の人物が大きく絡んでくることは、なかなかおもしろい。

二・二六事件阿部定事件クロヒョウ脱出事件は昭和十一年の三大事件といわれた。(p112)

こういう知っていてどうするんだ、というようなウンチクとともに、動物好きにはたいへん楽しめる。