江村洋「ハプスブルク家 (講談社現代新書)」

ふとした理由で、ハプスブルク家についていくつか読んでみたくなった。
この本は、講談社現代新書で二〇年前に発売されている。著者があとがきで『日本のふつうの読者にも読んでいただけるような、簡にして要を得た、私なりのハプスブルク史(p246)』を書きたい、と書いているが、この本はまさに有言実行、その通りになっている。
あまり世界史に詳しくないぼくとしては、一冊でこれほどまでにすっと要点が押さえられるとは思わなかったのでびっくりしている。しかも、知らないことでもうまいこと興味を引くように構成されていて、一冊を通して全く退屈しないのである。ハプスブルク家についてなど、たくさん書くことがあろうに、これだけスムーズに、しかもおもしろく読ませてくれるのは、よほど緻密に書かれたのだろうと想像する。
歴代の皇帝のキャラクターの違いやその時代のハプスブルク家についても、興味深いエピソードとともにわかりやすく書かれ全く退屈しない。世間的に有名とされる人物ではなく、著者が重要だと考える人物を中心に据えたのはたいへん適切だったのだろうと思う。

『馬鹿正直なほどに約束を守ることが伝統的(p89)』で、結婚という平和な(当人にとっては意に添わない場合もあろうが)手段で国家を大きくしていった一族、というあたりに興味をひかれた。そういう一族だったからこそ、それぞれの皇帝やその妻たちが大きくクローズアップされる。結婚した夫婦が仲がよいか、子どもとどういう関係にあるか、などが重要になってくるのもうなずける。

もちろん、一読しただけで全ての取り上げられている皇帝とその業績などがはっきり理解できたわけではない。しかし、「神聖ローマ帝国」とはいったいなんなのか。帝国とハプスブルク家との関係。オーストリアとスペインの関係。プロテスタントカトリックの違い、フランスとの関係など、世界史であまりピンとこなかったあたりが実に鮮やかに解説されていて、読み終わってうなるしかなかった。
高校生の夏の課題図書として、さらには世界史がつまらなかった大人のやり直しの一冊として、ぜひぜひおすすめしたい。