長沼毅・藤崎慎吾「辺境生物探訪記 生命の本質を求めて (光文社新書)」

茂木健一郎に「科学界のインディ・ジョーンズ」と呼ばれたという生物学者、長沼先生による、縦横無尽の対談集。
たしかに、彼の写っている写真は、その格好といい、ポーズといい、鋭い目といい、どこかエキセントリックな香りがする。和服も、サハラで買ったという民族服も、作業服もさまになっている。ロックシンガーのような趣がある、といおうか。

一方で、その口から出てくる冒険譚の数々は、内容がキャッチーで、また会話自体が楽しくて読んでいて愉快であると同時に、アカデミックな興味も満たしてくれるような深さがあって、じつにおもしろい。多くの人の興味がある生命や地球の起源の話の巧さだけでなく、温泉の効能の話から微生物と温泉の科学の話になるあたりなどは、こういう人にとっては、何をきっかけにしても、深い科学の話を展開させうるのだということを思い知らせてくれる。
地球の隅々をまわり、海洋生物から微生物まで語り尽くす。その研究の幅の広さといい、内容の先端性といい、一般書にするには贅沢なほどのトークが新書にしては大部なページ数でじっくりと展開される。これに応えて、しっかり400ページ使って収録した光文社、えらい。

鉱物の話、地下や海の構造の話、それらを構成する元素について、それらの生成に関わる生物の化学反応について、など、生物学にとどまらない知識の広さと深さが目を引く。単に生物が好きだ、というだけでは見えてこないことが、地球のことを広く知ることで見えてくるのだろう。地震という現象に、地下水、ひいてはその流れを変える微生物の活動が関わっているかもしれない、というコラムの話などは、なるほどと思うと同時に、実に驚きだ。

研究というのも、自分がやっている分野の「辺境」を広く見て、そこを追求していくことで生まれてくる創造性があるのだと確信させてくれる一冊。ここまではいけなくても、この人は単なる専門バカではない、なんというつながりを見出せるのだこの人は!と驚かれるような少々のエキセントリックさを研究者としてもっていきたいなと思う。