日垣隆「ラクをしないと成果は出ない (だいわ文庫)」

先日も同じ著者の本を読んだばかりだが(日垣隆「知的ストレッチ入門―すいすい読める書けるアイデアが出る (新潮文庫)」 - 千早振る日々)、自分の仕事のやり方について考えさせられる内容だった。ふとくたびれた折に、読みやすそうな文庫を見つけたので読んでみた。
結局同じ著者なので、言いたいことがそれほど変わるわけではない。しかしこの本は、100のシンプルな言葉に、独立した、効率の良い仕事をしていくうえでのヒントをまとめてあって、実に読みやすい。

ときおり、力を入れずにさらっと書いてあるのに、なにかひっかかるページがあったりする。特に、沢木耕太郎さんから『誘われたら断らない』というアドバイスをもらい、愚直に十五年守り続けたというエピソードは、特に押し付けがましくないのだけれども、なにかひっかかるものがある。

たとえ間違っていてもいい。一〇個あったら一〇個守るのは無理かもしれない。それでも、二〇代から三〇代くらいまでに聞いた先輩のアドバイスのいくつかを一〇年は愚直に守り続けると、さまざまなことが身につきます。(p83)

じっくり戦略を立て、「こうすればもっとよくなる」と決めてすぐにやることで自らの道を切り開いてきた著者。その根本的な力の源であり、読者であるわれわれが最も真似すべき美点は、よいと思うことはこだわらずに取り入れてみる、というこうした素直さにあるのかもしれない。心のフットワークの軽さといってもいい。
考えてみればわかる。自分のこれまでのやりかたや、ポリシーに反するようなアドバイスを、言われたからには何か意味があるのだろうからやってみるか、と思える人はそういない。なぜなら、これまでの自分を否定するようなアドバイスを聞くと、どこか、説教くさく、自分が責められているように感じてしまうからだ。

でも、そうしてアドバイスをくれる先輩は、きっと昔の自分を見ている。俺はもっと早くこれに気づいていればもっとよかったのにな、気づいてほしいな、と思って、自分の昔の姿をそこに見て、思わず口にしてしまうようにアドバイスをくれる場合が多いのではと思うのだ。
しかし、そこまで考えて受け入れると決めるわけではないだろう。よかれと思ってくれたアドバイスだから、とにかくまずは受け入れてみよう、やってみよう、という態度が、自分の未来を少し変えるかもしれない。