服部正也「ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)」

40年前の新書である。いまだに増版され、読み継がれているのは驚きだ。

日本銀行から、アフリカの新興国ルワンダへ派遣された著者。ルワンダ中央銀行のトップとして、自分の経験と知識の全てをもって政策を実行していこうとする著者。しかしその前に立ちはだかっていたのは、誠実でない職員、他の金融機関や外国資本の無理解であった…。

金融関係のみならず、流通などの法整備にも関わる。さらには、貧しい農民にお金を貸し出し、倉庫をつくり、商業や流通の振興をはかる。何もない国だからこそ、ベタなことまでやらねばならない。経済知識のない職員や、他の大臣への丁寧な説明も仕事のうちだ。
官僚制度もきちんとしているわけではない。税金を徴収する人間の能力を頭に入れれば、直接税より間接税のほうがいいだろう、などといろいろな要素を考えつつ施策をうつ。法律をきちんと作るのも仕事のうち。まさに国の仕組みを作っている、という感じがする。こうした具体的な話の一つ一つが、国の運営というでかいレベルの話に直接つながるだけに、とても興味深い。


ルワンダの国民のための経済をいかに運営していくか?大統領と、忌憚なき会話の中で自分の考えを述べ、道を示していく。こうした一つ一つから、ある国を一から立ち上げていく難しさとともに、不謹慎かもしれないが途方もないやりがいもまた、この本からは伝わってくる。
国民の幸福を願う大統領と、それに応えようとする著者。その5時間にわたる、と書かれている熱いやりとりは、日本とルワンダ・先進国と途上国の違いを超えて、胸に迫るものがある。それは、国の基盤を作るという仕事にやりがいを感じ、自国の幸福・発展以上のものを、このルワンダという国に私心なく与えようとするまっすぐな著者の態度を文章から感じるからだ。


それにしても、著者の経済に関する知識の幅の広さには、時代が違うとはいえ驚かされる。一国を変える仕事をするにはこのくらいのことをできてしかるべきだとすれば、経済体制がより複雑な先進国における政治家とはたいへん難しい仕事だと感じざるをえない。

さすがに40年読まれ続ける中公新書の名著である。