芥川竜之介「地獄変・邪宗門・好色・薮の中 他七篇 (岩波文庫)」

森見登美彦さんの短編集で「薮の中」が取り上げられており、ではついでに読んだことのない芥川の王朝ものを読んでみようと思ったのがこの一冊。
この本のように、時代設定を昔においた小説は、以前は難しいと思って敬遠していた。しかし今考えてみると、現代のものや風俗が出てこないために、言葉遣いや細部に違和感を覚えることなく、登場人物がどのような思いを抱いているのか、何を言わんとしているのか、というところにフォーカスできるということはあるように思える。ひとたび聞き慣れた古典落語の良さと共通している、といってもいいかもしれない。
一途だったり、移り気だったりする恋愛模様についてだったり、自分の信じるものは何か?についてだったり、嫉妬や醜さについてだったり…。一つ一つの短編にじっくりと現代にも通じる考えさせられるテーマがあって、飽きずに一つずつ読み進めることができた。
北村薫さんの「私」シリーズの名作「六の宮の姫君」の原作もこの短編集に収録されており、ようやく読むことができた。そういえば、菊池寛についてもっと知りたいと思ったのはその本であった。芥川のほうに流れてこなかったのは不思議だが、そういう気分だった、のであろう。今芥川を読んで、この本も再び読み返してみようかな、という気になっている。

六の宮の姫君 (創元推理文庫)

六の宮の姫君 (創元推理文庫)