済陽高穂「がん再発を防ぐ「完全食」 (文春新書)」

タイトルのとおり、がんを治療するための食事療法について、抗がん剤や外科治療だけではがんは治せない、と考えた外科医が書いた本。
がんの治療の方針は、悩ましいものだろう。手術するか、抗がん剤でいくか、お金や生活の質との兼ね合いもあるだそうし、怪しい民間療法などにすがりたくなる人がいるのもわかる。
ただ、一つ言えるのは、地味だが、減塩や野菜中心にするなど食事を変えることで、身体の内部をよりよい環境に変えられることは確実だろうということだ。いつだったかのテレビのように、「納豆を食べれば」とか「バナナさえ食べれば
」のように一つだけ食べておけば、ということは、おそらくない。一つ一つの効果は目に見えるものではないかもしれない。しかし、生活習慣病であるかぎり、トータルに食事を変えることで、よりがんに対抗できる身体にできる可能性は高まるのは間違いないだろう。
著者は、食事の重要性について語るさいに、アメリカの例を出している。アメリカでは、がん撲滅のため、35年も前から、栄養学や疫学などの知見を総動員して取り組んでいるとのこと。『がんは禁煙で三分の一、食事で三分の一は防ぐことができる(p30)』というのはがん予防の常識であるらしい。
著者自身が書いているように、『全ての要因を排除して、たったひとつの食べ物の影響だけを調べる、ということはほぼ不可能(p41)』なのは納得だし、一つの食べ物だけを強調されるより科学的だ。本書で書いている、無農薬や自然のもののほうがいい、というのは難しいし感覚的なところもあるだろうから絶対とは思わないが、食事をトータルで考えること、他の方法と組み合わせて徹底して行うこと、には意味があるように思われた。こうした、「これさえあれば!」的なことがない科学的なスタンスは、著者自身の治療成績と、その極めて徹底した食事療法のしかたと合わせて、この本の説得力を高めている。
この方は、執刀4000例をこなしつつ、食事も重要なんだ、ということを考えてそちらも徹底的に勉強なさったのだろう。医者といっても、専門というものがあるし、それ以外についてまで考える余裕はなかなかないだろう。細分化してしまって、外科も化学療法も、そして普段の食事の指導も、というようにトータルで見て治療していこうという視野の広い人はそんなにいないのかもしれない。…となると、これからは、病気と健康についても、医者にアドバイスをもらいながらも、自分の身体のことを誰より知っている自分が勉強してトータルに考えていくことが必要とされるのかもしれない。
進行してしまってからではなく、普段からできるがんになりにくい身体作り、という面についても触れていて、とても参考になる一冊。