絲山秋子「沖で待つ (文春文庫)」

福岡の営業所で出会った同期の仲間との心の通じ合いを描く芥川賞受賞作。福岡で、恋人ではない男女の関係というモチーフは「逃亡くそたわけ」と似ている。男女がいれば恋愛という人間関係を意識してそこにだけスポットをあてるのではなく、ここに書かれているような曖昧な、ゆるい同胞意識を大事に思える人には共感できる。
一時期ほんとうに仲が良くて毎日のようにつるんでいても、仕事上、あるいは生活上の接点がなくなると、人と人とはあんがい簡単に連絡をとらなくなって疎遠になってしまう。特別な仲に思えるような仲間どうしでも、ずっと一緒にいられることはそうない。それが嫌だとかそんなもんだとかそういうつもりはなくて、それも含めて、一緒にいるとき、いたときの時間を大事に思っていたいのである。
絲山さんは、言葉にしないけど感じている信頼感みたいなものを書きながらも、そういう、いずれ疎遠になってしまうときがくるのだろうなーという、はかなさみたいなものも感じられるように書いてくれていて、そこがまた好きなのである。
絲山秋子「ニート (角川文庫)」 - 千早振る日々
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絲山秋子「海の仙人 (新潮文庫)」 - 千早振る日々