黒田涼「江戸城を歩く(ヴィジュアル版) (祥伝社新書 161)」

特に詳しいわけでもなく、ことさら興味があるわけでもないのに何となく買ってしまったが、面白かった。
『都市構造の発展が江戸城に規定されている(p246)』東京。それがよく分かるのは、江戸時代にそこに何があったのか、現在の地形と並べて比べてみることだ。首都高速や中央線は江戸城の堀の中やその跡を走っている。また、町中にも城の堀や門、昔の水路、そこにかかっていた橋の跡などが残っている。橋もないのに「〜橋」、門もないのに「〜門」という地名があったりするのは、その名残だ。こういうのは案外知らないもので、読んでいて納得することしきりであった。
徳川幕府の大インフラ整備は、川の流れを変え(利根川東京湾に流れていたことは有名だ)、江戸の町に水を行き渡らせるために神田川などの水路が設けられ、堀が掘られて銀座辺りから東京湾が埋め立てられ…と大掛かりなものだった。その後も、大きな火災などが起こった後に火除け地が作られたり、と江戸の街はその姿を変えてきた。その跡が現在の東京にもはっきりと残っている。歴史的な街というと京都や奈良などが一番にあがるが、こうして江戸時代に街を改造していった跡が残っている東京も実はけっこう奥深い歴史を刻んでいるのだということがよくわかった。
この本では、ヴィジュアル版というだけあって、江戸時代の古地図と現在の地図を比べ、実際にそのコースを歩いて見つけた石垣や門の跡などが写真で載せられている。実際に歩かなくても、写真を見ただけで歩いた気分になれることは重要であり、ありがたい。
さらには、昔の工事のしかたや、門の構造の秘密(門を入ると必ず右折するのはなぜか、など)といった知識もところどころに挟まれる。江戸城本丸跡など、実は気軽に訪れることのできるスポットも紹介されていて、ガイドブックとしてもかなり使える一冊となっている。