2011-01-01から1年間の記事一覧

野依良治「事実は真実の敵なり―私の履歴書」

ノーベル化学賞受賞者の野依教授が、日経新聞の「私の履歴書」に連載していた内容をまとめたもの。同じ分野でないのでもちろん正確なところはわからないのだが、著者は、その発言力などから、政治的なことに長けている、と見られそうなところがある。実際、…

斎藤成也「ダーウィン入門 現代進化学への展望 (ちくま新書)」

著者自ら書いているように、「ダーウィン産業」に連なる一冊。自分で言うのもなんだが、性懲りもなく、ダーウィンと書いてあるだけで買って読んでしまう読者がこの産業を支えている。 どれも同じようなことを書いてあるのだろう、と思う人もいるかもしれない…

藻谷浩介「デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)」

なんとなく、景気が上向くとか、より豊かになるとか、そういう展望を抱けない現状。それに、一つの答えを求めて読んでみた。数字上、日本が豊かになっていった「好景気」の時期(2002年から2007年)に何が起こっていたのか、なぜあまり豊かになったように感…

佐藤忠良・安野光雅「若き芸術家たちへ - ねがいは「普通」 (中公文庫)」

さきほど亡くなられた彫刻家の佐藤忠良さんと、小さい頃からその絵に良く親しませていただいた画家の安野光雅さんの対談集。 文庫版のあとがきに安野さんが書かれているように、芸術家を志す若い人たちにとって、いや、広くものを作ろうとする、創造的であろ…

多田富雄「寡黙なる巨人 (集英社文庫)」

免疫学の世界的科学者として、また、能を舞い白洲正子さんと親交があった知識人として、多くの評論やエッセイなどで楽しませてくれた多田富雄先生。 晩年は脳梗塞を患い、闘病の末昨年惜しくも亡くなられてしまったが、このような迫力のある本を私たちに残し…

藤原和博「父親になるということ (日経ビジネス人文庫)」

何となく手にした一冊。著者の本は読んだことがある。リクルートに勤めたあと、民間人として中学校の校長先生になった方である。生活も仕事もちゃんとしたい、スケジュールをしっかり埋めてばりばり仕事をしたい。周りの人間にもそうしてほしいし、物事が先…

行正り香「19時から作るごはん (講談社+α文庫)」

表紙の写真の豆カレーにひかれて買ってしまった。 働きながらも、夕飯をちゃんとつくって食べたい、という人のために、簡単でおいしい30分で作れるメニューをたくさん紹介してくれている。 けっこうためになるエッセイ、オシャレな写真、本の背表紙の紹介…

長谷川高「家を買いたくなったら」

以前に「居住の貧困」を読んだ時にも書いたが、地方から出てきた人間にとって、都会でどう住むか、という問題にはいつも頭を悩まされる。 一つの選択として、「買う」というものがある。個人的には、さんざんネット上の意見などを見てきて、さらには国内の状…

毛利敏彦「大久保利通 (中公新書―維新前夜の群像 (190))」

最近、明治維新期の政治家に興味がある。結果論ではあるけれども、なんと多くの人々が、空中分解させずに、うまいこと国を発展させる方向に舵を切っていったことか。そういう際に必要なリーダーの素質とはなんだろうか。そんなことを考えているからである。…

坂口安吾「桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫)」

森見登美彦さんがリメイクした「桜の森の満開の下」を含む、坂口安吾の短編集。 歴史に材を取った短編があるとともに、奇譚とでもいうのか、演劇にでも出てきそうな芸術的な世界が展開される物語もある。現代に生きる人間の物語がほとんどないせいもあってか…

佐藤文隆「職業としての科学 (岩波新書)」

宇宙物理学の科学者として数々の本を著してきた著者が、科学という職業に対して良きも悪きもさまざまに言われる現状について、考えてみようとする一冊。 未来の科学の社会的あり方にはまだまだ多くの可能性があり、転換期には豊かな想像力が問われているので…

柳瀬学「英文を読むスピードを3倍にする10の法則 (アスカカルチャー)」

中学・高校生向けの英文読解のコツを教える本。 that節や長い主語、関係代名詞などを、どれだけ「固まりとして認識する」かについて、懇切丁寧に説明していく。また、なるべく多くのパターンに応用できるように、同じ形の動詞なども多数紹介している。 こう…

北岡伸一「独立自尊―福沢諭吉の挑戦 (中公文庫)」

冒頭、「福翁自伝」の最初の部分がそのまま引用されている。さらっと読み始めて、しばらくそれが福澤諭吉の文章そのままだとは気づかなかったくらいに、今読んでもわかりやすい。 そのくらいわかりやすい文章で、明治の人々に日本とその問題、今後について自…

坪内稔典「正岡子規 言葉と生きる (岩波新書)」

あれは大学の院かなにかの入学式だったか卒業式だったか。文学評論などで有名な前の学長がゲストとして祝辞を述べた。相も変わらず面白い脱線に富んだその話の中で彼は、正岡子規について考えてみるべきだ、みたいなことを口にした。それを、今でも覚えてい…

齊藤誠「競争の作法 いかに働き、投資するか (ちくま新書)」

プロローグによれば、最初は『「豊かさ以上」(post richness)、「幸せ未満」(pre happiness)の時代』というタイトルが頭にあったそう。経済学者の著者が考えたいのは、誰一人幸せにならないような「豊かさ」、つまり数字上の経済成長になど意味はあるの…

ヴィクトルユーゴー「レ・ミゼラブル〈1〉 (岩波文庫)」

…地上に無知と悲惨とがある間は、本書のごとき性質の書物も、おそらく無益ではないだろう。(p21:「序」より) このユーゴーの序文の意味が、読みすすむにつれてだんだんと沁みてくる。この本に出てくる貧しき人々は、男も女も、自らの窮状を切々と語る。犯…

大前研一「そうだ! 僕はユニークな生き方をしよう!! 新版「知の衰退」からいかに脱出するか? (知恵の森文庫)」

中学生か高校生くらいだったろうか。家にあった大前研一さんの本にはかなり刺激を受けた。この本を読んで、今でも彼から受けるインスピレーションの多いことを感じさせられた。「これからはグローバル化!」という言い方はちょっとかっこわるい、と思う。グ…

マイケル・サンデル「これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学」

今さらといえば今さらな本だが、いろいろと考えさせられるきっかけとして、ときどき本を閉じて考えたりしつつ、じっくりと読んだ。 では、正義と不正義、平等と不平等、個人の権利と公共の利益が対立する領域で、進むべき道を見つけ出すにはどうすればいいの…

金森修「ゴーレムの生命論 (平凡社新書)」

ユダヤ教の伝説に出てくる人造生命「ゴーレム」。なんとなく名前くらいは聞いたことがあって、それなりにイメージもあるこの「化け物」。ユダヤ教の偉い人物であるラビが土から作り出したこの、生命とも生命でないともいえるようなものに関する伝説やそれを…

菅原克也「英語と日本語のあいだ (講談社現代新書)」

新指導要領で打ち出されたという、「高校の英語の授業は英語で行う」という方針。この、コミュニケーション重視ともいえる英語教育の方向に疑義を呈し、文法と訳読(英語の文を日本語に訳していくこと)の重要性を改めて提起する一冊。 英語でのコミュニケー…

山元大輔「行動はどこまで遺伝するか 遺伝子・脳・生命の探求 (サイエンス・アイ新書 29)」

ふとしたきっかけで、ショウジョウバエというモデル生物で行動と神経の関係について研究をしているこの研究者の名前を知った。せっかくだから出ている本を読んでみようと購入したが、これが大当たり。この本を読むことで、これまで断片的にしかなかった神経…

安宅和人「イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」」

「イシューからはじめる」とは、解くべき問題(イシュー)を見極め、作業仮説を立ててから仕事を進めることである。欲しい結果を先にイメージすること。この方のブログの記事には感銘を受けた。この本も、面白かった。 一方で、個人的には、あまり新しい考え…

玉村豊男「世界の野菜を旅する (講談社現代新書)」

珍味を食べて、それについて熱く語るエッセイが面白いのは当然だ。一方で、こんなにも日常生活に染み付いた普通の野菜について、その歴史やら文化やら著者の思い出やらを書いていって面白いエッセイはなかなかないと思う。 私の仕事は、ツアーガイドのような…

山崎将志「残念な人の思考法 日経プレミアシリーズ」

なんとなく読みやすくてためになりそうな本を衝動買いしたくなるときがある。これも、なにかの待ち時間に入った書店で売れてます、と宣伝されていた一冊。仕事は、プライオリティ(優先順位)を正しくつけることが大事ですよ、という主張を中心にして、仕事…

重松清「ビタミンF (新潮文庫)」

歳は37、8くらい。男性、会社員。関西以西の田舎から、18歳のとき、上京。バブル時に入社し、ひたすら仕事に励んできた。子どもは2人。家族の住むマンションは、高いローンで新興団地に購入した。少し老いを感じつつも、人生こんなものでよかったのか…

内田樹「日本辺境論 (新潮新書)」

昨年とっても売れて評判になったこの本。NHKのブックレビューで話題になっていたので、楽に読めるし正月休みにはぴったりと思い読んでみた。過去の「日本文化論」を受けてまとめ、歴史的史実を引きながら、「辺境」であり「世界標準」を作り出せない、どこか…

マーカス・バッキンガム&カート・ホフマン「まず、ルールを破れ―すぐれたマネジャーはここが違う」

一言で言えば、適材適所、ということだろう。長年勤めた人が、誰でも部下を管理する立場になれる、というのは間違っている、とこの本は強調する。 特に日本の会社では、よほど専門職として雇われていない限り、長年勤めて力量が上がってくると、部下を管理す…

豊田義博「就活エリートの迷走 (ちくま新書)」

就職活動で実にうまく自分を売り込み、内定をいくつも取るような「就活エリート」。彼らが、入社以降にうまく会社の仕事に適応できていない例が多いとこの本ではいう。単に、採用する側に見る目がなかったという主張はこの本ではなされない。エントリーシー…

武田尚子「チョコレートの世界史―近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石 (中公新書)」

定評ある中公新書の「世界史」シリーズ。既に「コーヒーが廻り 世界史が廻る」というコーヒーの世界史を扱った本は出ているが、今度はチョコレート。カカオ豆と、それを原料に作られたココア・チョコレートの話である。『砂糖とカカオの生産地はほぼ重なって…

原武史「「鉄学」概論―車窓から眺める日本近現代史 (新潮文庫)」

時間的・空間的な広がりをもつ鉄道を媒介にして、時代なり、社会なり、都市なり、郊外なりを論じてみれば、一般の教科書レベルの歴史とはまったく異なる、日本の近現代を俯瞰する巨視的な世界が見えてくるはずである。(p5) 鉄道知識をさらけ出すだけの、お…