大前研一「そうだ! 僕はユニークな生き方をしよう!! 新版「知の衰退」からいかに脱出するか? (知恵の森文庫)」

中学生か高校生くらいだったろうか。家にあった大前研一さんの本にはかなり刺激を受けた。この本を読んで、今でも彼から受けるインスピレーションの多いことを感じさせられた。

「これからはグローバル化!」という言い方はちょっとかっこわるい、と思う。グローバルに人やモノ、情報が動く状況は、もはや当たり前だ。それを当たり前として、ではどうするか、ということ。それを、しっかり情報を集めて自分の頭で考えることが大事なのだ、と著者は書く。
不況だとか、食糧問題が、環境問題が、エネルギー問題が、とさまざまな問題はあるだろうが、どれも、日本という枠だけではなく、世界を見れば解決の糸口はあるのだ。中国との関わりについても、その良いところを吸収できないか、という視点を持つことで具体的な方法がずいぶん変わってくる。
そうしたことを、大前さん自身がアイディアを披露して、ぱぱっと示していくさまは、実に鮮やかだ。しかしこの本での著者は、読者に対して、それぞれのアイディアが素晴らしい、と納得して終わり、にはさせない。そういう知恵を絞っていくことがこの国には足りていないのだよ、同じように自分でも考えてみなよ、と誘ってくれているのである。


この本ではむしろ、著者の提言よりも実践的でためになるところがある。それは、著者のように自分の力で知恵を絞っていくために、情報をどのように得て、どのように自分の血肉にしていくべきか、についてのアドバイスである。「本を読んだら5倍の時間咀嚼にあてよ(p234)」「自分の脳の中に棚を持て(p262)」などといったものがそれで、ただ記事や本を読んで知ったつもりになるのではなく、それを血肉化する過程をちゃんとつくらねば、ということを改めて考えさせられる。

もう一つ、著者が若者のためにアドバイスしてくれているのが、どういう能力を身につけるべきか、ということだ。『「英語」「IT(それを駆使した論理思考、問題解決法を含む)」「ファイナンス」(p349)』の3つがそれであり、加えてリーダーシップが重要だと著者は述べる。そこのところがシビアかつ具体的で面白かったので引用してみると、

資格や免許などの定量的なものではなく、定性的に物語として語ることのできるリーダーシップの経験が22歳までに5つはないと、ヨーロッパの有名企業では採用してもらえない。「三つ子の魂百まで」と言うが、リーダーとなる資質のある人は若い頃に、いろいろなところで親や学校の敷いたレールをはずれたことをやってきているものだ。(p350

などと書いている。就職も、日本国内で守られた企業にだけ応募する時代はそのうち終わり、世界の若者を相手にするとなると、こうしたことが求められてくる。例えば、前に学会で会ったことのある韓国の大学生などは英語も日本語もぺらぺらなうえに、リーダー的資質もあったりして、とても同じ歳の日本人が対抗できるものではない。今の日本からすると、ドイツやアメリカだけでなく、韓国、インド、中国などどの国からも学ぶべきことがある。


危機感を持ち、しっかり世界に伍せるだけの力をつけるように学んで行動していくことだ。行動すると何かを動かしている気になれるが、それだけではだめだ。世界はもっと学んでいる。著者は(きっとあまりに当たり前で)あまり重要でないと思っておられるようだが、文章や会話には、本を読んでいるかどうか、というような教養が露骨に現れてしまう。英語だって、ガチンコでビジネスなどをしていこうと思えば、簡潔な言葉をただ話せればいいというものではないだろう。そういうところも含めて、学ぶべきことは、まだまだ多いのだ。