斎藤成也「ダーウィン入門 現代進化学への展望 (ちくま新書)」

著者自ら書いているように、「ダーウィン産業」に連なる一冊。自分で言うのもなんだが、性懲りもなく、ダーウィンと書いてあるだけで買って読んでしまう読者がこの産業を支えている。
どれも同じようなことを書いてあるのだろう、と思う人もいるかもしれないが、一冊一冊著者のアプローチが違って、そのたびに、ダーウィンを読むことの奥深さがわかるのがおもしろいのである。

あとがきにもあるように、進化学の大家である根井先生の指導を受けた著者による本書。木村資生の提唱した、中立進化という現代進化学への世界的な貢献。そうした考え方をしっかり受けつつ、進化学の元祖であるダーウィンの書いたことを、原文から正確に読み解いていく。正攻法であり、若干専門的な内容ではあるが、だからこそ、現役の科学者である著者がダーウィンについて書いた本として非常に価値があると思った。
特に、「種の起原」の内容と、その主張の、現代から見た難点などを手際よく解説してくれるあたりは、「入門」として個人的に非常に勉強になるものだ。正の自然淘汰を強調するダーウィン説の、現代から見ると理解不足な点などを指摘し、現代の理解を補足するなどしている点は、専門的にダーウィンをしっかり読んでみようとする読者にとってとても役に立つだろう。
同時に、中立進化という考え方がどれほど進化を説明するのに役に立つか、どのようにそうした考え方が生まれてきたかという点についても詳しく、岩波新書の木村資生による名著「生物進化を考える」のガイドとしても有益。

さらに、最終章では、自然淘汰などに関する最新の知見を紹介してくれている。現役の進化学研究者の書いた本ならではであり、これも嬉しいところだ。