藻谷浩介「デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)」

なんとなく、景気が上向くとか、より豊かになるとか、そういう展望を抱けない現状。それに、一つの答えを求めて読んでみた。

数字上、日本が豊かになっていった「好景気」の時期(2002年から2007年)に何が起こっていたのか、なぜあまり豊かになったように感じないのか、について考えるという入り口は、少し以前に読んだ「競争の作法」に似ている。また、その時期にも内需は拡大しておらず、一般市民として実感のある幸せはあまり増加していなかった、という主張も共通しているように思われる。

では、それはなぜなのか。どうすればいいのか。この本は、その点では上記の本とかなり語り口が異なる。

「経済を動かしているのは、景気の波ではなくて人口の波、つまり生産年齢人口=現役世代の数の増減だ」。この本の要旨を一言でいえばそういうことになりましょう。(p268、あとがきより)

というように、日本人が加齢し、消費が落ち込んでいることが問題なのだということをこの本では一貫して主張する。
もちろん、それだけですべてが説明されるとは思わない。ただ、それを強調して新書としてわかりやすいかたちで主張するにはとても意味があると感じる。

住宅市場に関する例に代表されるように、いまだに、現役世代の数が非常に多い時期のビジネスのしかたを続け、売れていた時期の幻想を追い求めている業界も多いのだろうな、ということは実感としてもわかる。そういう意味で、たまたま数の多かった団塊の世代にあてはまったビジネスモデルをそのまま使っているために、景気の浮き沈みがあるように感じる、という本書の主張はもっともだ。キラキラの新車や、新築マンションにこそ価値があるのだという売り方を、これだけお金を持っておらず人数も少ない働き盛りの世代にあてはめてどうしたいというのだろう。
なんとなく、もう土地の値段は上がらないことも、決してバブルの時期のような景気のよさは訪れないだろうことも、ぼくらより下の世代は感じている。だからか、至極当たり前のことが書いてあるように思われてしまう。きっとこの本の主張は、そういうことが実感として感じられない、団塊の世代など年齢がある程度上の人にとって、目からウロコをおとしてくれるものであるのだろう。正直なところ、若い人ほど、なぜここまで人口動態について強調して主張しなければならないのか、この本を読んでも意味がわからないかもしれない。

この本の価値は、そうして「われわれの世代は人数が多いだけだったのか」と気づいた上の世代の人間が、若者を頑張って雇用するとか、息子や娘に生前贈与を積極的にするとか、そういう行動をとってくれるかにかかっている。

面白い本ではあったが、読後、正直少し言いようのないやるせなさを感じた。