内田樹「日本辺境論 (新潮新書)」

昨年とっても売れて評判になったこの本。NHKのブックレビューで話題になっていたので、楽に読めるし正月休みにはぴったりと思い読んでみた。

過去の「日本文化論」を受けてまとめ、歴史的史実を引きながら、「辺境」であり「世界標準」を作り出せない、どこかに答えがあるのをふらふらと探している、という日本の姿を描きだす。

軽く読める分、勉強になるという本ではない。そのあたりは、まえがきなどでもさんざんおことわりされているので、特になんとも思わない。過去の日本文化論に、ご専門である身体論をうまく絡めて、日本人は外にあるものを受け入れる「学ぶ力」に長けているのだ、という論を展開するあたりは、著者らしい流れでおもしろい。

日本について語る本は、おおむね「このままではいかん」とする本と、「これで良いから安心しよう」とする本と二種類あるはずだ。この本はどちらの立場にも大きく肩入れはしてはいないが、結局読者が迫られるのは、自分は書いてあることをどうとらえてどう動くか、ということだ。

この本を読んで、「では辺境でいいではないか」と開き直るのは楽だろうが、科学にたずさわるものとしてはやはり、どうしてもそうは思えない。
かといって、それが科学者ならみんなできているかというと、そうでもない。先行者としての立場から戦略的に「こうすべき」ということを言えないのが日本人の欠点だ、という意見には、全員がそうではないだろうがそうだろう、と同意するしかない。せっかく良い教育を受けても、謙虚に「まだまだ学ばねば」という人はたくさんいるが、「世界(というのは大げさだが、もっと小さい領域の問題について)はこうあるべきだ」ということを自分が言わねばだれが言うのだ、というようなエリート意識のようなものを持っている人は少ない。いつまでも、劣っている。先頭に立って、賞賛だけではなく、非難の銃弾すらも受けてやろうとする勇気や志までは、教えないのだ。

たとえ政治や外交の点で現在の日本がそうでないとして、それをどうこういってもしょうがないし、そこまでは偉くない。せめて、自分のやっていることには誇りをもって、もっとこうしたらいいんじゃないですか、と言えるようでありたい。自分が仕事をしているところから発信することにおいては、自前の戦略的知見を交えた、踏み込んだメッセージを出していけるようにしていきたい。