長谷川高「家を買いたくなったら」

以前に「居住の貧困」を読んだ時にも書いたが、地方から出てきた人間にとって、都会でどう住むか、という問題にはいつも頭を悩まされる。
一つの選択として、「買う」というものがある。個人的には、さんざんネット上の意見などを見てきて、さらには国内の状況を考えれば、長期間のローンを組んで家を購入することがどれだけ損であるのかということはとてもよくわかっている。
一方で、買うのは損だよ、というだけでは、すべての人を説得することは不可能だ。損だとわかっていても、それを説得したり、購入しない場合の衝突のコストを考えれば、買った方がいいときもあるのである。実際のところ、買うことによる安心、賃貸にはない良さ、居住価値、というのも間違いなくあるわけだし。

…ちょっと、言い訳じみた。この本を手に取ったのは、どういう理由で家を買おうと思う人がいるのか、どういう場合なら買ってもいいか、どう選ぶか、などについて、考えるきっかけになりそうだな、と思ったからだ。
実際、家のさがしかた、どういうところに目をつけて比較するか、どう優先順位をつけるか、などからはじまって、かかるお金の種類、ローンの組み方に至まで、親切丁寧に語られる。いろいろ雑誌を見たり、不動産情報をチェックする前にこのくらいは知っておいたほうがいい、というところは網羅されている。

特にこの本がいいなと思ったのは、絶対こうした方がいい、という論じ方をしないバランス感覚だ。
例えば、「いつが買い時か」という問題についても、価格的な損得でベストの時期を論じることはできない、金利との関係で今後も不動産の価格は上がり下がりがあるだろうし、自分の大切にしているものを考えつつしかるべき時期に買うべきだ、というアドバイスがされている。
自分の限度のめいっぱいの価格の家を買わないという選択がある、というあたりを京都の老舗料亭の女将の話から進めていくあたりも、「家を買いたくなったら」というタイトルの本としては非常に良心的で、公正であると感じられる。

こういうタイプの本では、読者に考えさせるようなところがあるかどうかが大事だと思っている。この本では、情報を色々提供しながらも、結局は自分でじっくり考えねばな、ということを感じさせてくれるところがとてもいい。