北岡伸一「独立自尊―福沢諭吉の挑戦 (中公文庫)」

冒頭、「福翁自伝」の最初の部分がそのまま引用されている。さらっと読み始めて、しばらくそれが福澤諭吉の文章そのままだとは気づかなかったくらいに、今読んでもわかりやすい。
そのくらいわかりやすい文章で、明治の人々に日本とその問題、今後について自分の考えを語った福澤諭吉。なんとなくしか知らないその生涯を、著作とその内容、さらに彼の後年のビジョンまで、包括的かつ平易にまとめた伝記。

インターネットもなにもない幕末、アメリカ、次にヨーロッパを巡り、西洋文明を導入せねばと留学仲間で意気込んだ福澤。それもつかの間、待っていたのは、政変と攘夷の幕末の混乱だった。

この混乱で、幕府の方向も二転三転。勤めていた幕府の立場を強くし、西洋文明を導入するという自分の目指す方向を実現しようとしていた彼は、結局そのままでは志を果たせず、在野の立場から教育で日本を変えていこうとする。

これほどに、自分のいる組織の中から、何かを変えていこうとするのはむずかしいのか、と思わされる。その組織が大きくなればなおさらだ。うまくいくとすればそれは、それなりの権力をもっていること、そして機が熟すること、この2点がよほどうまく噛み合うことが必要なのだろう。
もし、なし得なければ、できるのは、次世代につなぐこと。福沢諭吉は、私学を作ること、そしてその影響力のある著作で、長く、そして多くの人々に影響を与え、自分の考えを次世代につないでいった。それはそれで、仲間を作り、人に読まれたり、納得してもらえるような魅力的な考えを発信する必要がある。

勝海舟伊藤博文など、幕末維新の人物たちとの思想・やり方の同じところ、違うところについても多く触れられていて、福澤の人柄と、オリジナリティがよくわかる一冊になっている。面白かった。