山元大輔「行動はどこまで遺伝するか 遺伝子・脳・生命の探求 (サイエンス・アイ新書 29)」

ふとしたきっかけで、ショウジョウバエというモデル生物で行動と神経の関係について研究をしているこの研究者の名前を知った。せっかくだから出ている本を読んでみようと購入したが、これが大当たり。

この本を読むことで、これまで断片的にしかなかった神経・ニューロンの知識が、歴史を追った丁寧な解説ではじめて包括的に頭に入ってきた。ミツバチなどの純粋な行動学から筆を起こし、神経科学の成り立ちと刺激の伝搬のしかた(生物学の教科書にも載っているあたりだ)を挟んで、動物の行動とニューロンのつながりを研究する系譜へと研究は進んでいく。それが最終的に、ショウジョウバエを用いた、著者の最新の研究にまでつながっていく。

どの研究分野にも歴史がある。一流の研究者は、自分の研究の歴史的な位置づけ…つまり、最先端である自分の研究へと過去から続いてくる系譜についてその人なりのやりかたで考えないわけにはいかない。この本は、生物学の一大分野である神経科学について、そしてその行動学との関係について、著者の研究へつながってくる系譜を中心にして、実にわかりやすいあり方で見せてくれる。

なによりも、歴史上の大事な研究については、実験の方法までシンプルながらも詳しく説明してくれており、神経科学の方法論がイメージしやすくなっているのがとてもよい。
実際、おかげで現在の神経科学の方法の基礎的なところがかなり理解できた気がする。脳に電極を刺して刺激し…というあたりはなんとなくイメージできていたが、それが実際どのニューロンなのか、というのを特定する方法がある、というあたりに話が及んだあたりには、特に驚かされた。差し込んだ電極から色素を注入するとは。アナログで単純そのものだが、読むまで想像もできなかった。
ちょっと分野が変わると手法はわからないのはしょうがないのだが、それを当然だと思わないようにしたい。神経科学という熱い分野の研究の仕方くらい、イメージもできないのはもったないない。そう思わせてくれるだけの、わかりやすい解説がとても興味深かった。


ショウジョウバエにおける概日リズムと求愛行動のリンクの話など、終盤はどんどん面白くなる。その分、生物学をかじっていないとさすがに少々難しいところはある。これからどういう分野の研究をしてみたいかと考えている大学学部生や、生物学をある程度わかっていて、神経科学の基礎を知りたい他分野の研究者、一般の方におすすめである。