原武史「「鉄学」概論―車窓から眺める日本近現代史 (新潮文庫)」

時間的・空間的な広がりをもつ鉄道を媒介にして、時代なり、社会なり、都市なり、郊外なりを論じてみれば、一般の教科書レベルの歴史とはまったく異なる、日本の近現代を俯瞰する巨視的な世界が見えてくるはずである。(p5)

鉄道知識をさらけ出すだけの、お手軽な雑学の本ではない。上に引用したのは「はじめに」の一節だが、まさにこの通り。この本では、鉄道という題材で日本の近現代史を論じるという実に面白い試みがされている。
興味のある方は、ぜひ本屋で、宮部みゆきさんの解説を立ち読みしてみてほしい。要点を押さえつつ、個人的な経験も含めて、面白さと役に立つところをしっかり伝えてくれている。すごいなぁ。こういう感想を書けるようになりたい。

内田百�、阿川弘之宮脇俊三という、名前と本の名前だけは聞いたことがある鉄道紀行文学の巨人たちの話から始まるこの本。次の章では永井荷風高見順の見た鉄道について語られ、さらに、著者の専門とも言える天皇と鉄道の話へとつながっていく。
昨年読んだ著者の「滝山コミューン一九七四」で詳細に出てくるような、各私鉄沿線の文化や、政治運動の時代の鉄道についてなどの話は、既に便利にそこに存在しているものとして鉄道を利用しているぼくにとって、その裏にある歴史を見せてくれる、とても想像力が刺激されるものばかりだ。
鉄道も、このように見てみると、オタク的趣味、というのとはまた変わってくる。立派な社会学なのである。