2010-01-01から1年間の記事一覧

大竹文雄「競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)」

経済学者の著者による、経済に関してやさしく語られたエッセイ。 日本人が市場経済のメリットをきちんと認識していない、ということをデータなどから説いていく序章から、公平感や働くことについて日常的な話題から経済学的に考えていく二章、三章と、経済学…

金子光晴「どくろ杯 (中公文庫)」

すごい本を読んでしまった。一人の詩人が、男女関係のごたごたと日本での逼塞感から、意を決して夫人とともに中国へと渡る。これが、その後5年にもわたって世界を回る放浪生活のはじまりだった…。昨年末に出た「BRUTUS」の本の特集で、金子光晴の自伝を山崎…

大塚英志「大学論──いかに教え、いかに学ぶか (講談社現代新書)」

マンガを教える大学を作り、さまざまに工夫をこらして学生に教えた経験から、大学のできること、教え教わることについて著者が考えたエッセイ。著者は、大学という場所で教えることを、とても楽しんでいるように読める。 ぼくが大学という場所がいいなと、思…

増田彰久「西洋館を楽しむ―カラー版 (ちくまプリマー新書)」

西洋館。それは、明治から昭和初期にかけて建てられた、西洋の様式を取り入れた建物とでも定義すればいいのか。どういうものがそれなの?と訊かれてとっさに思いつくのは東京駅とかだろうか。 このかわいいカラー版の本に出てくる建物は、建てられた年代もば…

渡辺政隆「ダーウィンの夢 (光文社新書)」

進化論を提唱したダーウィンの主著「種の起源」出版から150年のアニバーサリーイヤーが昨年2009年であった。そこで数々のダーウィン関係の書籍が出版されたわけだが、そのなかに、「種の起源」の新訳というのもあった。 そうした出版ラッシュも収まりつつあ…

酒井穣「「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト (光文社新書)」

話題になっていたこの一冊。書評はあちこちに出ているので、自分が覚えておこうと思ったことだけ書く。 変化の激しい時代に社員に何を身につけさせるべきか。OJTは無責任だ、という考え方から、著者が考える手法を提示していく。しかし、実際にどのような手…

丸谷才一「挨拶はたいへんだ (朝日文庫)」

小説家・文芸評論家の著者が、文学賞の授賞式やパーティー、知人の長寿の会や「偲ぶ会」、結婚披露宴などで披露した挨拶を短いコメントとともに味わう。挨拶の際は必ず原稿を作って読む、という人なればこそできる本。 ただ挨拶が並んでいるだけといえばそう…

本間義人「居住の貧困 (岩波新書)」

地方から出てきた人間にとって、都会において住宅をどうするかという選択は非常に難しい問題だ。利便性がよく、新しいほど部屋は狭く、また家賃は高くなる。家族を持つことになるとますます悩みは増すし、かといって安くて古い建物は災害が怖い。安心して住…

榊淳司「年収200万円からのマイホーム戦略」

相場に惑わされず、中古の物件を買ってリフォームすることで、あなたもマイホームが持てますよ、という本。資産価値としての家ではなく、使用価値(住む価値)に重心をおいて家選びをしよう、という至極まっとうなことを具体的にどうすればいいか、を含めて…

平林純「論理的にプレゼンする技術 聴き手の記憶に残る話し方の極意 (サイエンス・アイ新書)」

どこかで良い評判を目にしたので読んでみた。愉快なイラストとともに、これ以上ないほど気軽な気持ちで読める。が、内容は意外と濃い。 最近、論文を書くことに自信が出てきたせいか、自分の中でのプレゼンの苦手意識がきわだってきているのを感じている。デ…

デイヴィッド・セイン「英語ライティングルールブック―正しく伝えるための文法・語法・句読法」

論文以外にも、英文メールを書く機会が昨年来増えている。しかし、その形式などは、昔用いていたものをそのまま無頓着に使い回していていたりする。そこで、確認の意味もこめて、また英語らしいこなれた表現を扱えるようになることを期待して、読んでみた。…

遠藤秀紀「ニワトリ 愛を独り占めにした鳥 (光文社新書)」

解剖学を通じて答えのない学問に切り込み続けるこの人が帰ってきた。成果主義に振り回される私たち研究者への力強い言葉とともに。 二十一世紀初めの日本社会を雇用不安や低い賃金や年間三万人の自殺者で味付けした行革狂いの政治家にとって、答えを出さない…

三浦しをん「桃色トワイライト (新潮文庫)」

だめだ。おかしすぎる。この人のエッセイは、なんでこんなにツボなのだろうか。こういうエッセイは好き嫌いもありそうだが、出るたび買って笑ってしまう。ぼくは、この人の書くエッセイに含まれているどういう成分に反応しているのだろう。 なんだろうか。エ…

森博嗣「創るセンス 工作の思考 (集英社新書)」

人に喜ばれるものづくりがしたい、と技術者への道を選んだ後輩に薦めるつもりで書く。 この本は、ものづくり・技術者を志すものにとって一度は考えておかねばならない視点をたくさん提供してくれる。設計通り、思うままにならない困難を乗り越え現場で問題解…

瀬川晶司「泣き虫しょったんの奇跡 完全版 (講談社文庫)」 (講談社文庫)" title="泣き虫しょったんの奇跡 完全版 (講談社文庫)" class="asin">

数年前、将棋界におけるアマチュアとプロの厚い厚い壁を破った一人の男。まさに奇跡と言ってよいこのことを成し遂げたのが、この自伝の著者である瀬川さんだ。 彼のことを知っている将棋ファンなどはやはり、プロへの登竜門たる奨励会での年齢制限による挫折…

林洋子「藤田嗣治 手しごとの家 (集英社新書)」 (集英社新書)" title="藤田嗣治 手しごとの家 (集英社新書)" class="asin">

この一見、気軽で華やかに思える本の隠しテーマは「遺品」です。画家・藤田嗣治が遺した「もの」について書きました。彼には近年、展覧会や出版が続いており、ここでの履歴や絵画作品の紹介は最低限にとどめています。一般の耳目を集めがちな「戦争画」にあ…

羽生善治・伊藤毅志・松原仁「先を読む頭脳 (新潮文庫)」

ひさびさに将棋に熱中している。毎日少しずつ、パズルのように詰め将棋をやり、休みの日にはテレビで対局を見て、ネットで実戦。 いつも、最新の戦型や定跡がわからなくてだんだん嫌になっていくのだが、そういうのは、ちょっと実戦で失敗したり、プロの対局…

梅田望夫「ウェブ時代5つの定理 (文春文庫)」

文庫化。インテルやグーグル、アマゾンやアップルなど、シリコンバレーの名だたる創業者たちの、未来を見通す言葉たちが紹介される。 世の中の雑事にあまりわずらわされずに暮らしたいと考えていた著者を、起業を決断するまでに至らせた刺激的な「ビジョナリ…

佐藤孝治「廃止論 (PHP新書)」廃止論 (PHP新書)" title="廃止論 (PHP新書)" class="asin">

時は就職氷河期、未だ終身雇用が大多数だった10年以上前のこと。「どこでもいいから早く決めたい」とインタビューに答える大学生を見て、「一生の方向を決めてしまうかもしれないのにそれでいいのか?」と、将来の就職活動に対してとてつもない不安を抱い…

ジャン・プレゲンズ「ジャンさんの「英語の頭」をつくる本―センスのいい科学論文のために」

副題にあるとおり、科学論文の英語に焦点をあてて、英語らしい表現、英語らしい流れとはどのようなものかについて語られるエッセイ。著者は、医学論文の英語校閲を実際にいくつも担当しているかたで、彼の経験などから、科学論文の英語について考えたい人に…

春日武彦・穂村弘「人生問題集」

タイトルは大仰だが、笑って読める対談集。まじめに語っているのに、とにかくおかしい。語る内容も、語り方も。 精神科医の春日さんと、歌人の穂村さん。生まれ育った環境や持っている感覚は違いながらも、随所で一致してしまう意見があったりする。波長が合…

潮木守一「ドイツ近代科学を支えた官僚―影の文部大臣アルトホーフ (中公新書)」

現在の日本にも通じる、アカデミックな世界におけるポスト不足と恵まれぬ若い研究者の一群。ほんの100年前の、ドイツのお話である。 しかし一方で、そうした時代のドイツ科学界からは、血清療法のベーリングや、免疫学のエールリヒら、数多くのスター研究者…

芥川竜之介「地獄変・邪宗門・好色・薮の中 他七篇 (岩波文庫)」

森見登美彦さんの短編集で「薮の中」が取り上げられており、ではついでに読んだことのない芥川の王朝ものを読んでみようと思ったのがこの一冊。 この本のように、時代設定を昔においた小説は、以前は難しいと思って敬遠していた。しかし今考えてみると、現代…

堂目卓生「アダム・スミス―『道徳感情論』と『国富論』の世界 (中公新書)」

この人といえば「見えざる手」という言葉しか知らなかった。規制をなるべく取り払うべきだ、市場に任せるべきだ、というイメージ。それは、経済や市場について語る学者の人が使っていた言葉のイメージでもあった。実際の彼はどういうことを言っていたのか?……

吉田篤弘「つむじ風食堂の夜 (ちくま文庫)」

手品師の父を持ち、急な階段の古アパートの屋根裏部屋に住まう作家。唐辛子やエスプレッソマシーンについて軽く、『楽しい感じ』の読み物を書いて生計を立てている彼が通う食堂には、不思議な街の住人たちが毎晩集う。 記憶の中にある父親の像。それと比べて…

生井久美子「ゆびさきの宇宙―福島智・盲ろうを生きて」

目が見えず、耳も聞こえない「盲ろう」を生きながら、障害について、バリアフリーについて考えている東大教授、福島智さんについて書かれたこの本。 彼がどのような人かは、テレビを見たり話にきいてある程度知っていた。感動を求めて読んだわけではない。ゆ…

済陽高穂「がん再発を防ぐ「完全食」 (文春新書)」

タイトルのとおり、がんを治療するための食事療法について、抗がん剤や外科治療だけではがんは治せない、と考えた外科医が書いた本。 がんの治療の方針は、悩ましいものだろう。手術するか、抗がん剤でいくか、お金や生活の質との兼ね合いもあるだそうし、怪…

沼上幹「組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために (ちくま新書)」

仕事のための仕事を作ってしまう。有能な人ほど忙しく新たな展開をする余裕がない。社内政治に長けた人間が増える。ルールが複雑怪奇化する。…このような組織の腐敗は、程度の差こそあれ長く続いている組織にはありがちだろう。 本書は、日本の組織の本質的…

医学と芸術展(森美術館)

六本木ヒルズの森美術館にて、「医学と芸術展」を鑑賞。 英国より借り受けて展示されているレオナルドダヴィンチの解剖スケッチをはじめとして、医学・薬学・生命科学をモチーフにしたアートや、資料などを展示している。 いずれ死す運命にある人間の身体を…

内田和俊「仕事耳を鍛える―「ビジネス傾聴」入門 (ちくま新書)」

いきなりですがお薦めの一冊です。 こういう本はたくさんありそうで、一方で本当にこれはためになるぞ、と思うものはそんなにない。しかしこの本は、こういう新書には珍しく、といっては悪いかもしれないが、とても有益で充実している。自分を振り返り、明日…