三浦しをん「桃色トワイライト (新潮文庫)」

だめだ。おかしすぎる。この人のエッセイは、なんでこんなにツボなのだろうか。こういうエッセイは好き嫌いもありそうだが、出るたび買って笑ってしまう。ぼくは、この人の書くエッセイに含まれているどういう成分に反応しているのだろう。
なんだろうか。エッセイというものはこれまでだっていろいろあるけれども、これほどまで、教訓や人生に役に立つ言葉もなく、ほっこりすることもなく、その人の作家活動を支える信念が見えるのでもなく(あちこちに締め切りに間に合わない、とは書いてはあるが)、ただただアホらしくておかしいものを書いておもしろいのはそんなにないのではなかろうか。
褒め方が変になってしまったが、これだけ心を緩めてどうでもいい気分にさせてくれるというのは、まさに自分が笑いに求めていることであって、それが500円でお腹いっぱい満たされるのが嬉しい。ほんとうにすばらしい。
椎名林檎みたいな本のタイトルの由来について書かれた文といい、漫画について、大河ドラマ新撰組!」とオダギリジョーについて、バクチクについて…などを女子同士で会話している様子は、普段からどれだけおもしろいことを考えたり話したりしているのかとうらやましくてならない。しをんさんだけでなく、その友人もことごとく観察眼が鋭くおもしろい発想の持ち主であることも可笑しさを増幅させる。友人は鏡であり、似た感覚の人は集うのだ。そしてきっと、こういう人間関係から、あれやってみよう、これおもしろそう、と創造的な発想が生まれてくるのだ。

解説は、名翻訳家にして名エッセイストの岸本佐知子さんが担当というゴージャスさ。こちらがまた、作家がエッセイを書くことの本質について考えておられて、実にうまい。