羽生善治・伊藤毅志・松原仁「先を読む頭脳 (新潮文庫)」

ひさびさに将棋に熱中している。毎日少しずつ、パズルのように詰め将棋をやり、休みの日にはテレビで対局を見て、ネットで実戦。
いつも、最新の戦型や定跡がわからなくてだんだん嫌になっていくのだが、そういうのは、ちょっと実戦で失敗したり、プロの対局を見たりしつつ、理詰めで考えるとだんだんわかってくるのだな、と思うと気にならなくなってきた。もう一つには、この本で羽生さんがこういうことを言っているが、その意味がなんとなくわかってきたから、というのもある。

もう一つ、将棋の指し手を考える上で重要だと思うのは、一つの局面である手を指すことは、自分にとってマイナスになる可能性が高いということです。(p89)

自分が何か動くことは、相手に隙を見せることでもある。相手が狙う隙を察知して、致命的にならないような手を選べば、同じくらいか少し上のレベルの人と序盤で大差になることはないのでは、と思い切れたとたんに、おもしろくなってきた。いつまで続くかわからないけど、本業とは全く違う頭の使いかたをすることに、脳が喜んでいる感覚がある。しばらく熱中してみようと思う。

さてこの本。最新科学で羽生さんの思考法に迫る、という触れ込みだが、そのあたりは正直あまりおもしろくない。やっぱりおもしろいのは、ウェブの世界でもよく知られている、羽生さんの考え方だったりする。

序盤戦においては…できるだけたくさんの可能性を残しておくこと(p89)

最終的には指し手の流れをつかんで、どちらのほうがより流れにうまく沿っているかによって、形勢判断している(p97)

というあたりなどは、どのように一つの研究を組み立てていくかというところにも通じるところがあると思ったし、長期的に考えれば相手が得意だったり、自分が苦手な戦型を怖れてはいけない、というあたりも確かにな、と感じた。これだけ長い期間一流で居続けるには短期的なスパンでものを見てはいけないし、と同時に、直感を大事にしつつ、流れを良く見るという一つの「型」を持っているのが大事なのだろう。
将棋だけでなくて、仕事論としてとても参考になるところが多かった。