梅田望夫「ウェブ時代5つの定理 (文春文庫)」

文庫化。インテルやグーグル、アマゾンやアップルなど、シリコンバレーの名だたる創業者たちの、未来を見通す言葉たちが紹介される。
世の中の雑事にあまりわずらわされずに暮らしたいと考えていた著者を、起業を決断するまでに至らせた刺激的な「ビジョナリー」たちの言葉は、何か自分にもできるのではないか、という思いを強く引き起こす。起業に向いているいないではなく、社会をよりよくしようとする気持ちを持って新しい仕事を作り出していくことが大事なのだ、という著者の(ビジョナリーたちの言葉を借りた、ともいえる)メッセージは、まさに日本の若い読者に向けられたもので、とても熱い。

『いちばんできる奴こそが最高の倫理観を持ち、物事をありのままオープンに示し、正直に事に対処し、隠し事をしないこと。(p68)』『狂信的に注意を払うこと(p179)』とか、(グーグルを)『「働きたいと思う場所」である状態を守り続けなければいけないという意識(p217)』とか、自分が日ごろ考えていることをより深く考えさせてくれるような言葉が満載で、読んでいて頭がよく回転しているのがわかった。これだけの刺激的な言葉が並んでいる。そのなかに、読む人によって、どこかひっかかる場所があるだろう。

個人的に特に考えさせられたのは、「チーム力」のところだ。超優秀な個人たちの集合体が組織を爆発的に押し上げる力を出すにはどうしたらよいのか、について考えていく。
一つ感じたのは、『大きく成長する会社は、ある時期に必ず異質な人材と組むものです。(p88)』というのは、よく言われることでありながら、なかなかできないことだろうなということだ。自分たちでやる、自分たちのチーム、という気持ちが起業の際の大きな動機だとすれば、そこに知った顔をした他人やプロを連れてくるのには抵抗が伴うことはよく想像できる。実際、グーグルでもそうだった、ということがこの本では書いてある。いかなる組織でも、このことを勇気を持ってできるかどうかが、長く成功していくカギなのかもしれない。
もう一つ、転職する際に「リファレンス」(『自分の職歴や実力を証明してくれる人の連絡先一覧(p103)』)というものが重要視される、という話には、我が意を得たり、と思った。つまりこういうことだ。

会社をたとえ辞めることになっても、「こいつとはチームでいい仕事をしたな」と評価されるような実績を積み、自分のリファレンスリストに入れられるような人脈を増やしていくことが、キャリアを構築していくうえで不可欠です。(p103)

この考えは、もっと紹介され、強調されても良いと思った。採用とは、結局その人とチームを組みたいかどうか、にかかっているのだとすれば、やはり実力やスキルだけでどうかなるものではない。前の職場でチームのメンバーとして評価されていたかどうか、を考慮に入れるという考え方は、採用する側にとっても、自分を売り込んでいく側にとっても、もっと重視してよい。
そうやって、いろいろな組み合わせで個人と個人がつながって、創造的な仕事をしていく。そんな、仕事の未来像が少し垣間見えた。気持ち奮い立つ一冊。