ジャン・プレゲンズ「ジャンさんの「英語の頭」をつくる本―センスのいい科学論文のために」

副題にあるとおり、科学論文の英語に焦点をあてて、英語らしい表現、英語らしい流れとはどのようなものかについて語られるエッセイ。著者は、医学論文の英語校閲を実際にいくつも担当しているかたで、彼の経験などから、科学論文の英語について考えたい人にはぴったりの話題が展開される。
この本の最初に書いてあるが、日本語と違う、英語の面倒なところの多くは、『英語はコンテクストの低い言語(p17)』というところに集約されてくる気が最近している。例えば英語に慣れていない・苦手な後輩が英語で論文を書くと、その言葉の足りないことは、何度指摘してもなかなかわかってもらえない。日本語で言いたいことを英語で言うためには、カチカチした書き方で誰が読んでも分かるように言葉を尽くして説明しなければいけない。逆に言えば、そのおかげで論理的なことをきちんと書くには英語はとてもやりやすい、と個人的には感じている。
すなわち、英語は日本語と違うコンテクストを持ち、日本人の書く英語は説明不足になりやすい…このことを最初にいろいろな例で指摘しているこの本は、日本人が技術英語を書く際のかなり重要な点を見逃していない。こういう、日本人の感じる英語の理屈ではない難しさ、という点をきっちり抑えて説明してくれるスタンスは、エッセイ風でとりとめのないようにも思えるこの本のとてもすばらしいところだ。

このスタンスをもって、具体的に、細かい動詞の違いによるニュアンスの違いなどに触れていく。英語らしい英語、誤読を招かない英語にするにはどうしたらいいのか。論文にふさわしいフォーマルな表現とは。読む人に気を使った、ちょっとしたものの言い方について。…どれも、すぐに使えるかは別として、読む人の英語の血となり骨となるのは確実だ。特に、垢抜けた表現にするためには、冗長な表現をつなげないこと、文章の途中で人称を変えないこと、などのアドバイスは、「理科系のための英文作法」(←この本がまた実にすばらしい)とも通じるところがある。達人の見るところは、かなり共通しているものなのだ。
こんなふうにニュアンスを伝えてくれる人がいると、英語らしい書き方への意識も高まる。後輩への指導にも使える、ヒントがいっぱいの一冊。