渡辺政隆「ダーウィンの夢 (光文社新書)」

進化論を提唱したダーウィンの主著「種の起源」出版から150年のアニバーサリーイヤーが昨年2009年であった。そこで数々のダーウィン関係の書籍が出版されたわけだが、そのなかに、「種の起源」の新訳というのもあった。
そうした出版ラッシュも収まりつつある2010年。昨年その新訳を手がけたサイエンスライターによる、わかりやすく魅力的に語られる生命の進化史がこの本である。わかりやすいながらも、ここ2、3年の新知見も数多く取り込まれていて、ありきたりの進化のストーリーを辿り直すだけにはなっていないので、それなりに進化に関する本を読んできた人でも楽しめる。
始祖鳥発見のくだりなど、ダーウィンに敵意を燃やす比較解剖学者オーエンの話や、津田梅子とモーガンの邂逅など、他の本ではあまり見なかったエピソードで楽しませてくれる。そういったエピソードと絡めるかたちで、「カンブリア紀の生命の大爆発」などが小気味よく物語られていく。
考えてみれば、進化論が発表されてから150年という、しかもかなり研究が進んだと思われるこの時間は、相当長い。この期間、進化という考え方が固まってくるまでに関わってきた研究者の歴史は、さらっと一冊の本でかけるようなものではないほど、まだまだ知られていないさまざまなエピソードに富んでいるに違いない。

進化が無目的であり、つぎはぎのように『ありあわせの材料の使い回し(p118)』がされてきたという考え方は、生物学者や科学者だけでなく、さまざまなクリエイティブな仕事に関わる人間にインスピレーションを与えてくれる。魅力的な進化に関する入門書がまた一冊生まれた。