瀧口雅仁「平成落語論─12人の笑える男 (講談社現代新書)」

それほど寄席や落語会に頻繁に足を運んでいるわけではないが、こういう本を見つけると買ってしまうくせがある。現在活発に活動している12人の落語家を取り上げて、著者の思いを述べる一冊。
現在、落語はブーム、というほどでもないが、それに向けたスタートラインにはあるだろう、という著者は次のようなスタンスで語っていく。

したがって、本書では一人の芸人の現在の姿とオススメの落語を積極的に挙げるというものでは必ずしもなく、その落語家がどんな姿勢でスタート地点に立っているのか(立とうとしているのか)、そして、他の落語家との「連」の中で。どれだけ個性を放ちえて、重要なポジションにいるのかを見渡す姿勢を取っている。(p13)

ということで、かなり専門的なことをご存知な方なのだろう、それぞれの方への注文や襲名に関する提案も積極的にしている。そういった記述は、自分はそれほど詳しいわけでもないので何とも思わないが、ひょっとすると偉そうに読める人もいるかもしれない。しかし、多少の偏りがあったほうが、こういう本は面白い、かもしれない*1

それにしても、科学者と同様に個人事業者である落語家という商売。互いが互いにライバルであり、業界全体のためには協働したほうがよいと思ってもなかなか難しいところが多いのだなと改めて感じた。
何人かでまとまった動きを作っていく大事さというのもある。そういう、政治的と言われるような活動は誰かがやっていくべきで、どちらかと言えばそういう方向に魅力を感じている自分もいる。
その一方で、世間から見るとき、個人事業者は、なんだかんだ言ってその人の芸(科学者なら研究成果)が非常に大きな部分を占めるのだということは忘れてはいけないな、とふと考えた。その質があってこそ、個人事業者としてやっていけるのだ。自分の芸の質を高める努力は常に続けねばならない。
あ、もう一つ、どれだけ、独り立ちして評価されるような弟子を世に送り出すことができるかということもありそう。
そんな、個人事業者として生きる人々のありかたと、それを見る世間の目というものを考えさせられる一冊でもあった。

まあでも、同じ落語本を読んでみるなら、まずはぜひとも堀井憲一郎さんのこちらをお勧めしたい。

*1:…とは書いてみたものの、案の定というかなんというか、アマゾンの評価は相当悪い…