坪内祐三「考える人 (新潮文庫)」

小林秀雄からはじまり、さまざまな「考える人」、考えたことを書き残してきた先人たち、が登場する。それぞれの人々の考えてきたさまを、書かれたものを読んで紹介していくという試み。

この「考える人」は単なる作家論や人物論ではありません。
「考える人」としてのその人を考える論考です。(p250)

ぱらぱらと書店でめくって、武田百合子神谷美恵子幸田文あたりが目について購入。他にも、中野重治吉行淳之介らについて書かれた文章を含む。

それにしても、こうして、本を読み、印象に残った箇所を引用しながら、自分の考えを書くのは難しい。この本の著者も、締め切りに余裕を持って書こうとして、本を読みなおしはじめて、読む心地よさに取りつかれて、結局しばらくかけない…という状況に陥ったと何回も正直に書いているくらいだ。
実際、難しいと思う。この本のように「考える人」としての作家を考えるとしたらなおさらだ。文章に「考える人」としての姿がはっきりと現れる人ばかりではない。そういった、「考えているのだがそれが表に見えない人」については、読者はその人物の文章を読んで、その手触りなどから書いた人の考えについて思いをいたすしかない。
書いたものからその著者の考えに思いをいたそうとすると、自然に引用は多くなる。…そう、本の感想を書いていて特に難しいなと思うのが、文章を引用する場合のバランスだ。
どうしても、引用しないとニュアンスや魅力が伝わらないことがある。その本について本当に何か感じたことを書く場合は、やはり頭に引っかかった場所を提示しておきたくなる。
しかしこの本は、文章の引用のしかたと、その文章への自分の考えを語る語り方が、実にすうっと無理がない。こうやって書いてみたい。もちろんさらっと書けるものではないとわかっている。しっかりと書いた人の背景もおさえながら、読んでみようかなと思わせるように書くのはとても難しいことだ。
特に面白かった、ぜひ読んでみたいと思ったのは福田恆存と『人間・この劇的なるもの (新潮文庫)』について書かれた最後の文章。個性と演技について。何回も読んでいる文章への思い入れと、何回も考え抜いただろう著者についての考えが、とても魅力的に語られている。ぜひ、読んでみようと思う。
あとがきが南伸坊さん。この本の面白さを、素直に直球な感想で書いてくれていて、またよい。くだくだ書いてしまった自分の文章が余計に思えてくる。

自分が、無関係だと思っていた人々に、ちゃんと出会わせてくれた本。(p319)