佐藤満彦「ガリレオの求職活動 ニュートンの家計簿―科学者たちの生活と仕事 (中公新書)」

大学や国の機関、企業などに籍を置き活動する、「職業としての科学者」が完全に成立する以前の時代。物理学や天文学、数学の先駆けとなった有名な科学者たちの勤め先や懐具合はどうなっていたのか?コペルニクスガリレオニュートンらを例にとり、パロトンを見つけたりその機嫌をとったり、どうにかして研究を続けようとした先駆者たちの実に人間くさい姿。
最初についた職は「教授」という名前だったものの、今でいう研究員みたいなもので、任期制で非常に薄給だったガリレオ。未払いの給料に悩まされ、貧乏生活の中で天文学の新しい時代を開いたケプラーフランス革命の時代、コロコロ変わる権力者に振り回されつつ自分の研究の場を確保しようとした科学者たち。一般にわかりづらい科学上の業績について細かくは書かれず、こうした科学と社会の関わりに関して多くを語っているこの本を読んでいると、現在の科学者の状況が決して悪いものではないなと思ってしまう。いつだって、自分の研究を進めたい科学者はお金や時の社会状況に振り回されてきたのだ。ある程度実家が裕福な人が科学を行いやすいという事実も、今も昔も変わらない。
あとがきに書いているように、「善玉とされてきた科学者には悪玉な面を、悪玉とされてきた人には善玉な面を」意識しているところとか、著者の個人的な好き嫌いが全面に出てこないところとか、読んでいてストレスがなく、自分でいろいろ考えさせてくれるという意味で非常にバランスのよい本だった。手に入りにくい文献ばかりだったとの理由で参考文献がないが、あるとより親切だったかもしれない。
「地球はそれでも回っている」と言ったとされているガリレオも、一生教会勢力から目の敵にされていたわけではなかったとか、世間で言われていることに関する先入観をほどよく破ってくれるあたりも新鮮だった。他にもこういう、科学者の生活などについての本をもう少しあたってみたいと思った。