小松達也「英語で話すヒント――通訳者が教える上達法 (岩波新書)」

ひさびさに英語勉強本を。同時通訳の現場で活躍する著者が、我々はいかに日本語を生かしながら英語「で」話すべきか、についてアドバイスしてくれる一冊である。

相手に分かりやすく話すためには,まず頭の中で考えをまとめ整理することが大切です.そしてこの過程は,母国語である日本語でやった方が自然です.(「はじめに」vi)
頭の中で考えをまとめる時は,母国語である日本語でする方が自然であり楽です.そして日本語で考えることは,英語で話す上での障害にはなりません.(p79)

といったあたり、日ごろ考えていることととても合致しており、うなずきながら読んだ。同時通訳という、一度きりの切迫した現場で英語を使い仕事をしている人の実感がこうだ、ということは、勇気をもらえる気がする。
日本人は、英語で考えることができなければならない、という切迫感を持ちすぎる。この思い込みは根深いもので、科学論文を英語で書こうとする時に、日本語でまず筋をかっちり立てろ、というと、多くの自信のある学生はちょっと反発する。しかし、英語でいきなり破綻のない論理をかっちり立てるのは、最初はほとんど無理といっていいかもしれない。
昨年、台湾の大学の先生とお話をしたのだが、英語ぺらぺらに思える台湾の学生も、論文を書かせるとからっきし、だそうだ。英語を話せるからと言って、かっちりと論理の立った文を書けるとは限らない。このことは残念というより、我々に自信を与えてくれるものであるはずだ。
この本もまた、あくまで英語は道具であり、考えたり論理を立てる際には日本語で考えても、英語「で」話すことには何の障害もないと断言する。同時に、『情報伝達型の話し方は,ネイティブ・スピーカーにとっても自動的に身につくものではありません.p79』と述べる。英語を道具として考えるぶんには、日本人にもディスアドバンテージはあまりないのだ。

こうしたことを踏まえた上でのアドバイスの数々はとても役に立つものばかりだ。いくつかあげてみると…

言葉を通して何を伝えようとしているか,が重要です.そのためには,先にも述べたように,使われた全ての単語を聞き取る必要はありません.(p46)
ボキャブラリーについては,私たちはもっとレベルの高い単語を使った方が表現しやすいのです.(p77)
私たち外国語話者の場合も決して流暢である必要はありません.ゆっくりであっても,メッセージをはっきり伝えることが重要なのです.(p82)
一つ一つの発音を気にするより,文章全体のリズムに気を配って,できるだけ大きな声で(loud),はっきり(clear)話すことです.(p160)

道具としての外国語に、こうしなければ、こうでなければ上達しないという縛りを考えない方がいい。相手の言うことを理解し、こちらの言いたいことを理解させる、という目的さえ達成できればいいのだから。